カレンダーabout当サイトは『鋼の錬金術師』の二次創作サイトです。公式とは一切関係ございません。 同人サイト様に限り、リンク・アンリンクともにフリーです。 http://kotonoha1o6tom.kakuren-bo.com/ プロフィール
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コトノハ倉庫管理人の二次創作妄想小説倉庫 since 2010.5.18PAGE | 18 17 15 14 12 11 10 9 8 7 6 | ADMIN | WRITE 2010.05.18 Tue 22:38:21 つないだ手edwin 原作(未来) どこまでも澄んだ青い空が子どもたちを見守っていた。 少女は少女のそれより小さい掌を握って、言った。 「ゆっくりでいいからね」 歩き始めたばかりの少年は覚束ない足取りで彼女の小さな手だけを頼りに歩みを進めた。 「エドもて、つないで」 少女は面白くなさそうにしている少年にそう言葉を投げかけた。 「アルは『あるきたて』じゃん。いっしょあそばなくていいじゃんか」 少年はその幼い顔の眉間に皺を寄せて面白くなさそうに反論するが、少女は言うのだった。 「さんにんじゃないと、あそばないもん」 少女のその言葉に対して不服そうにしながらも、その少年は渋々従った。小さな少年の手を握る。 三人の手がつながった。 「いこう」 そうして日の光の差す草原の中へ三人は手を繋いで歩き出した。 それは遠い昔の話。 つないだ手 僕は天を仰いだ。日の光があまりに眩しくて思わず目を細める。 「どうしたの?」 彼女は僕に尋ねた。僕は彼女に向き直って、ダージリンの匂いが香る白磁のカップを握り直しながら返事をする。 「ただ、いい天気だなあと思って」 「うん、晴れてよかった」 彼女は微笑って頷き、それから僕に倣うかのようにグレープフルーツジュースが入ったグラスを手に取った。その姿はまるで「乾杯」とでも言いたいかのように嬉しそうで。その理由なんてものは簡単に想像がついた。彼女のグラスを握る手にはエンゲージリングが輝いていて。僕は「まあ、それもそうだなあ」と感慨を覚えながらそれを眺める。それはまるで彼女と兄さんの未来を祝福しているかのような希望の光を放っていた。 僕は静かに紅茶を啜る。口の中に少しばかり苦味を感じた。 ふたりが婚約するという話を聞いたのはつい一週間前の話だった。僕は「いつかはそんな日が来るだろう」とは思ってはいた。それは想定の範囲内の出来事の筈だったのだ。けれども、思っていたよりもあまりに唐突にその報せは僕に齎された。事はいつも唐突に起こるものなのだと僕は無理矢理納得せざるを得なかった。それはトラブルメーカーの兄を持った弟の宿命である、と言えよう。今回のトラブルにおいて幸いだったのは、嬉しい誤算であった、ということか。 なにはともあれ。ふたりは未来の約束を、契約を交わした。それは非常におめでたいことだった。多分、僕が思っているよりも、ずっと。兄さんは幸せだ。一番好きな女性と結ばれるなんて。しかもそれが同時に自分を理解してくれている存在であるだなんて。ウィンリィも幸せだ。人生の伴侶に選んでくれる程度には兄さんを好いていてくれている訳だし。僕にとっても彼女のような理解者が愚兄を貰ってくれるなんて願ったり叶ったりで、僕はふたりの婚約を喜ばしく思っている。思っている筈、だったのだ。 それなのに、だ。不思議なことに僕の胸の内には固いしこりのようなものが出来ていた。飲み下せないような、複雑な感情。それをここ一週間ずっと抱えている。あまりに事が唐突だったから脳みそが事態に追いついていないのかな、なんて思ってもみた。けれども「いつかは来る」と分かっていた未来だった訳なのだから。それでは説明がつかないような気がした。どうしたもんかなあ、と思う。紅茶に映りこんだ自分の顔は頭脳明晰且つ眉目秀麗な男のそれには見えなくて。どうしたんだ、アルフォンス・エルリック。お前らしくないじゃないか。僕はそんなことを考えながら紅茶をもう一口啜る。けれども、口の中に広がる苦みを否定することは出来なくて。ああ、もう。なんでだよ。人知れず、僕は呟く。 不意に、彼女の穏やかな笑い声が耳に入った。思わず顔を上げる。 「なんで笑ってるんだよ」 「アルが可笑しいから、よ」 彼女は、ストローを弄りながらどこかからかうような視線を僕に向けた。 「アルは、結婚しないの?」 「まだ僕にはまだ早いよ」 僕はさらりと返事をする。本当のことを言うとメイから頻繁に手紙が来ていたりする訳だけど、それを告げたらからかわれるに違いないから、それは黙っておく。そんな僕の本音になど気付くことなく、彼女はその眉を下げながら言う。 「そんなこと言ったらエドなんて早すぎるくらいじゃない」 彼女の一言に思わず苦笑いをした。僕の肯定の合図を彼女もきちんと受け取って、そうしてカフェテラスの隅っこでふたりで静かに笑った。 一通り笑い終えると、少しの間沈黙が流れる。僕は紅茶を啜ってから彼女の顔を見遣る。すると、彼女の顔は先程笑いあった人間の顔とはまた違った色が浮かんでいた。彼女のグラスの中はいつの間にか氷だけになってしまっていて、彼女はただそれを静かに見つめる。 そして、不意にポツリと呟いた。 「アルもいつか結婚しちゃうのよね」 「うん」 「そう考えたら、私もアルの気持ちよく分かるよ」 「うん?」 「ちょっと寂しい、かも」 彼女はその瞳の色を少しだけ曇らせて、告げた。そして、その気持ちを紛らわすかのように氷しか入っていないグラスの中をストローでゆっくり混ぜる。カラン、という音が辺りに響いた。オープンテラスには僕たち以外にも人が沢山いたのに、賑やかなくらいだったのに、何故か僕の耳にその音は大きく響いて聞こえた。 でも。ねえ、ウィンリィ。 僕は、そっと、でも力強く言う。 「でも、僕は嬉しいんだよ」 だから、ふたりの未来を祝福するよ、という意味を込めて微笑む。寂しいけれども、それは本心だから。ねえ、ウィンリィ。誤解しないで欲しいんだ。僕は君が言うように寂しがっているのかもしれないけど、嬉しいんだ。嬉しくて嬉しくて堪らないんだよ。 彼女は僕の言葉に哀しそうな、けれども嬉しそうな表情を浮かべて、静かに頷いた。僕はそれに安心して少し渋いそれをまた一口飲み込む。 不意に、彼女が言った。 「アルも、いつか恋人が出来たら絶対に教えてね」 僕は困ったように眉を下げることしか出来ない。そんな僕に構わずに彼女は話を続ける。 「アルが好きになる人ってどんなタイプなのか興味あるし」 その言葉に対しては、僕は苦笑することしか出来なかった。まるであの遠い昔の告白がなかったことにされてしまったようだ。或いは、子どもの頃のあれは彼女にとってノーカウントということになっているんだろうか。まったく。僕は幼心に真剣だったというのに。彼女はいつも肝心なところで鈍感なのだった。でも、 そんな僕の様子に初恋の君は不思議そうに首を傾げた。 「なんでもないよ」 そう言って誤魔化した僕に彼女は「気になるじゃない」と言ってその頬を少し膨らませて睨んできた。彼女のその怒っている姿は昔と変わらなくて。その姿を愛おしいと思ってしまうのは、やはり今でも彼女のことが好きだから、なんだろうな、と思う。幼い頃のそれとはもう違ったものになってしまったけれども。それでも、彼女が大切なことに変わりはないのだ。 彼女の抗議の言葉から逃れるために紅茶を飲もうと僕はカップに手を伸ばし掛けた。その時左手に付けていた腕時計が目に入って、僕はふと思う。 「もうすぐ兄さん、駅に着くんじゃない?」 彼女は店の時計を確認して、頷いた。 彼女は上着を羽織り、鞄を手に取る。鞄から財布を取り出そうとした彼女にいいから、と合図をしてみせた。彼女は素直に「ありがとう」と言って鞄をその肩に掛ける。彼女が最後にすることといえば、当然別れの挨拶に違いない筈で。僕は彼女からその言葉を受け取るべく、見上げた。 すると。不意に、僕の眼前に彼女の掌が差し出される。彼女は別れの挨拶に握手などしたことがなかったから、不思議に思いながら僕は彼女の瞳を見つめた。彼女は僕の視線を受け止めた。そしてその顔に昔と変わらない微笑みを浮かべて、言った。 「これからもよろしくね、アル」 彼女は照れたように、続ける。 「あたしだけじゃあいつは手に負えないんだもん」 彼女は茶化すように告げたけれども、その真意は、彼女の言いたいことは、僕には痛い程に伝わってきた。 僕は兄さんほど考えが顔に出るタイプじゃない。むしろ演技が上手な部類の人間に入ると自負している。けれども僕のポーカーフェイスも彼女の前においては形無しというか無意味というか。それは、彼女が超能力者だから見抜いてしまう、なんてことではない。ではなんでかというと、それは非常に簡単な理由で、積み上げてきた年月の重さが彼女に痛い程に僕の想いを分からせてしまうんだろう。まあ、同じ年月を重ねたといっても単純な兄さんには出来ない芸当かも、だが。なにはともあれ。僕たちは幼馴染なのだ。多分僕にとって彼女が大切な存在であるように、彼女にとっても僕はそういう存在なんだろう。 僅かに間をおいて、うん、と頷く。そして、自分のそれより小さくなってしまった、けれども温かいそれを握りしめた。昔と同じように。そうして変わっていくものと変わらないものを強く握りしめる。 「じゃあ、また」という言葉を残して彼女は街の中に歩き出した。遠ざかる彼女の足元を飾る少し低めのヒールに彼女の兄への想いを見つけて、僕は微笑った。彼女はいつも肝心なところで敏感なのだ。 僕はその靴音が完全に街に混ぎれていったことを確認すると、紅茶を一口飲むためにカップの取っ手を握った。そしてふと気付く。カップの中身は空っぽだった。僕は、不思議なことにいつの間にかそれを飲み込んでしまっていたのだ。思わず苦笑する。我ながら単純なものだ。兄ばかりを単純だとも言ってもいられないな、と静かに溜め息を付く。そして、紅茶のおかわりを頼むべく手を上げて店員を呼んだ。 本当のことを言うと、寂しさが完全に拭えた訳じゃない。だって、僕たちはずっと三人一緒だったから。けれども思うんだ。たぶん、僕たちはずっと一緒なんだって。幼い頃に信じた魔法はもうその殆んどが解けてしまっていて、信じられるものなんてほんの一握りしか存在していない。それでも、彼女の笑顔は昔と変わらない、から。信じていいよね。信じているよ。だって、僕たちはいつまでもずっと幼馴染だから。 そう胸の内に呟いて、紅茶を一口啜る。新しく入れてもらったそれは、口に広がる少しの苦味とその品のある香りにより格別に美味しく感じられた。 僕はふと空を仰ぎ見る。それは驚く程に澄んだ色をしていた。昔三人で見たような、どこまでも澄んだ青。 思わず心の声が口を衝いて出る。 「いい天気だなあ」 それは遠い昔の話。 どこまでも続いているかのような澄み渡る青い空の下で、子どもたちはその小さな手を握り合う。 「いこう」 少女はその顔に優しい笑みを浮かべながら、言う。未来を信じて疑わない、そんな色を浮かべながら。ふたりの小さな少年も同じような笑顔でそれに応える。 そうして、その日子どもたちはどこまでも続く光の中にその小さな手をつないで飛び込んだ。 PR TrackbacksTRACKBACK URL : CommentsComment Form |