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当サイトは『鋼の錬金術師』の二次創作サイトです。公式とは一切関係ございません。 同人サイト様に限り、リンク・アンリンクともにフリーです。 http://kotonoha1o6tom.kakuren-bo.com/

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はるのうた



09.10.26

edwin パラレル
片想い?高校入学式前。春の訪れを感じて。

  

 
カレンダーを覗くと、来週のとある日付のところに赤ペンで『入学式』と記されていた。テレビでは、桜の開花情報なんてものを報道している。ここいらの桜が咲くまで、あと少し、らしい。

 なんとなく「もうすぐ春だな」と、思った。そこには、感慨だとかそういう感情は全くない。まるで、目の前に用意された食事を見て「シチューだな」と確認する、そんな風に「もうすぐ春だな」と、思った。


はるのうた


 ふと、疑問がわいた。今は、朝だ。午前中だ。A.M.8:03だ。雀がチュンチュン鳴いて、鶏がコケコッコーと鳴いて、米と味噌汁と漬物と卵焼きと焼き魚なんかが飯に出される筈の、いつもの朝。の筈、だ。
 なのに、だ。今、オレの目の前に用意された食事は、『ディナー』と呼ぶのに相応しいような、それだった。下手したら、そんじょそこらのディナーなんかよりも豪華なんじゃないかと言える程の量(質も悪くはないが、特筆すべきはその量だろう)だった。シチューやハンバーグやサラダや名前の分からない料理(多分、横文字の訳が分からない名前だろう)なんかがところ狭しといった具合に並べられている。まるで、満員電車を思わせるような、そんな様。
「デザートに、アップルパイもあるよ」
 だから頑張って、という意味を暗に込めて、オレより一足先に朝食(という名の、ディナー)を終えた弟は席をたち、リビングをあとにする。残されたのは、朝食(という名の、ディナー)とオレばかりだ。つまり、オレはたった一人でこの朝食(という名の、ディナー)を机の上から一掃しなければいけないということか、ははははは。嬉しすぎて、思わず溜め息が零れた。
 いくらオレが食べ盛りの15歳の少年だからといって、食事に対して何のポリシーもない訳ではない。例えば、朝から味が濃い物はあまり食べたくないし、量だって程々(といっても、一般的に見たら多い量かもしれないが)でいい。そして、出来たら洋食よりも和食が食べたい――なんていう、ポリシー。それなのに、だ。今、目の前にある食事は「ポリシーが『ない訳ではない』というのは、ポリシーが『ない』のと大差ないでしょう?」とでも言うかのように、どっしりと佇んでいる。そんなの詭弁だろう、なんて言い返したくもなるが、目の前に置かれたシチューが実際そんなコトを言ってきた訳でもそんなコト言う訳もないので、言い返すも何も出来たモンじゃない。本日、二回目の溜め息。丁度その時、声がした。
「どうしたのよ、お兄ちゃん。溜め息なんかついちゃって」
 その言い回しは、一昔前のお笑い番組のコントを思い出させた――が、そんなことはどうでもよくて。
「オレは、お前の兄じゃない」
 眉間に皺を寄せ、如何にも「怒っています」という表情を面に貼っ付けてそいつを睨み付けた。オレの溜め息の原因を作った張本人であるそいつ”――オレの幼馴染であり、お隣さんちの女――を。だが、オレの睨みの効いた顔を物ともせずに、彼女は一人で話し始めた。
「今朝はちょっと頑張ってみたんだー。あんた、シチュー好きでしょ?あ、これ、結構自信作!このソースが美味しく出来た感じ!食べてみて!あと、それ、昨日八百屋のおじさんから貰ったの!有機栽培だからか、美味しいから食べてみなって。これもね、初めて作った割には上出来かも!あとねー
「つか」
 永遠と続きそうな料理の談義を遮るべく、話題を逸らした。というか、本筋に戻す。
「つか、なんで朝からこんな頑張ってんだよ」
 そう問うと、今まで嬉しそうだった顔が途端にしおらしくなる。恐るおそるという表現が似つかわしい、そんな様子で言葉を紡ぎ出した。
「あのね」
……おう」
「もうすぐ、高校の入学式でしょ?」
「おう」
「で、歩いて30分くらいかかるじゃない?」
「おう」
「自転車で通うと便利だと思わない?」
「おう」
「でも、私、自転車持ってないじゃない?」
「おう」
「だから、来週から、あんたの自転車の後ろに乗っけて」
 5回も連続して同じ返答を繰り返していた弾みで、思わずまた「おう」と返しそうになった口を慌てて閉じる。後ろに誰かを乗せて走るのは結構疲れるというのを経験上――もちろん、相手は目の前にいるこいつだが――知っていたため「イエス」と返事をするのは、憚られた。憚られたのだが。同時にピンと来る。
 「もしかして、チャリ乗りたいがためにわざわざこれ用意したのかよ!?」
 そう問うと、彼女は返事代わりに微笑みを浮かべた。ご丁寧にも、頬をピンクに染めて。彼女の微笑みは、まるで良いことをしたと信じて疑わない純粋無垢な幼稚園児のようだった。「褒めて、褒めて」とでも言いた気な、そんな顔。
 卑怯だ、と感じた。そんな純粋な微笑みを――褒められて然るべきとでも言うような微笑み――を前にして、「無理」だなんて断ることが出来る冷血野郎なんているだろうか――――否、いない。オレに与えられた選択肢は、イエスかノーの二択なんかじゃなかった。というか、オレには選択権なんか与えられてはいなかったのだ。彼女の微笑みを見て、本日三回目の溜め息。そして、答える。

「分かったよ」


 すると、彼女の表情がまるでスイッチを切り替えたかのように、変わった。悪戯が成功した幼稚園児のような表情。そして、「ありがと、助かる、よろしくー」と、即座にオレに言葉を投げかけてきた。その様子は、さながらオレの返事なんて聞く前から分かっていたかのようだった。というか。確信していたに違いない。あるいは、『鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ホトトギス』ってやつか。くそう。それがあまりにも悔しかったから、飲みこみきれない不満を少しだけ彼女にぶつけることにした。

「でもさ、機嫌取りのためっつっても、朝から豪華すぎだっつーの。朝は程々の量でいいのに。別に食うけどさ、オレだって食事にポリシー持ってない訳じゃないんだからな?」 
 すると、彼女はこう返してきた。
「ポリシーが『ない訳じゃない』のは、ポリシーが『ない』のと同じようなものでしょ?」
 それは。それは詭弁だろ、という台詞は、なんだかめんどくさくなって、シチューと一緒に飲み込んだ。まあ、せっかく楽しそうに鼻歌を歌ってる彼女をわざわざ不機嫌にすることもないし。
 それにしても、だ。美味いな、このシチュー。「デザートはアップルパイだよ」と洗濯物を抱えながら、あいつは語りかけてくる。そうして、洗濯物干し場へとつながる居間の窓を開けた。

 窓の外の景色の中に、桜の木を見つける。まだ蕾の、桜の花。開花予想よりも少しはやめに咲くかもしれない、そんな按配だった。
 なんとなく「もう春か」なんて感慨に耽りながら、洗濯物を干してるあいつを横目に、大盛りのシチューをもう一口、口へと運ぶ。



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