忍者ブログ

カレンダー

05 2026/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

about

当サイトは『鋼の錬金術師』の二次創作サイトです。公式とは一切関係ございません。 同人サイト様に限り、リンク・アンリンクともにフリーです。 http://kotonoha1o6tom.kakuren-bo.com/

プロフィール

HN:
とも
性別:
女性
職業:
社会人一年生

カウンター

アクセス解析

バーコード

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

積み木崩しのそのあとに



09.11.2

edwin 原作(未来)
恋人。喧嘩をしたふたりと、その宥め役とのお話。




 彼女はオレ強烈なに平手打ちを喰らわせて、薄暗い街の中へと飛び出していった。喧嘩のきっかけは些細なこと。けれども、いつになく深刻な内容だった。彼女が怒ってしまったのは、オレの言葉が足りてなかったからだ。その点において否定はしない。けれどもオレの言う言葉を聞かずに出て行ったのは、彼女だ。オレは悪くない。心の中でその言葉を反芻する。


積み木崩しのそのあとに


「ウィンリィ、こっちに来てからずっと不安そうな顔をしてた」
 ソファーに座り込んだオレを見下ろすようなかたちで立っていた弟がポツリと、言葉を漏らす。そんな話、なぜ今更するんだ。なぜ、今オレに話すんだよ。こいつが親切心だとかそんなものを持ち合わせた上でそんなことを言ってきたのであれば、オレが返すべき台詞は決まっていた。それは余計なお世話だ、と。
「兄さんは、謝るべきだよ」
 弟は愚かな説得を繰り返す。オレは同じ返事を繰り返す。何度目かも分からないこのやりとりにオレはいい加減飽き飽きしていた。
「オレは、悪くない」
 オレは悪くはない筈なんだ。オレはあいつのことが大切で、これからも一緒に居たかった。だから、目に見えるかたちで約束を与えてやりたかっただけだ。オレはあいつに贈り物を贈りたかっただけなんだ。それなのに、久しぶりに会えたかと思ったら「会える時間が減った」だの「もっと会いたい」だのと不満や我侭を並べてきたのはあいつじゃないか。オレはお前のために頑張ってるのに。あいつがもっとオレに理解を示してくれさえすれば、喧嘩をしなくても済んだんじゃないか。だから、悪いのはやっぱりあいつなんだ。それなのに、あいつが喰らわせてきた平手打ちを喰らった頬がジンジンして、痛い。とても、痛い。それが酷く癇に障る。
「仕事してえんだよ。あいつとはその気になりゃいつでも会えるだろが」
 そう言うと、弟は眉間に皺を寄せる。
「ウィンリィにもそう言ったの?」
「おう」
「それで、フォローの言葉もかけなかったんだ?」
「言おうとしたら、その前に出てったんだよ」
「言わなかったのと言えなかったのは当人にとっては大きな違いがあるかもしれないけど、周りの人間にとっては違いはないに等しいんだよ?」
 なんでこいつはもう終わったことににケチをつけるんだ。過去なんて取り戻せやしないのに。終わったことなのに。そんなの、お前も知ってるだろうが。それなのに、弟はしつこく噛み付いてくる。
「いつでも会えるんだったら、喧嘩する必要なんかないだろ。兄さんが時間を取れるように努力すればいいだけだ。それで解決だろう?そんなのでカッとなる兄さんのほうが悪いに決まってるじゃないか」
 その意見は他人だからこそ言うことが出来る意見だった。いや、もっと正確に表現するならば「意見」なんて大そうなものではなく、単なる他人事に対しての「感想」だった。お前は当事者じゃないからそんな「感想」を言えるんだろう?けれども、そう返すのですら今のオレにとっては煩わしかった。
「オレは忙しいんだよ」
 言外に「だからもう放っといてくれ」という意味を含ませて、言う。すると、弟はこう返してきた。
「兄さんが忙しいのはよーく分かってるよ。お金が入り用なんでしょ?指輪を贈る為の」
 オレの身体の動きが思わずピタリと止まった。心臓が止まらなかったのが幸いだ。だが、心臓の音は一気にドクドクと五月蝿くなった。いつ倒れてもおかしくないんじゃないか、と危機を感じる。
「お前、それどうして」と問う声が思わず裏返ったが、そんなのを気にしてなんかいられない。
「大佐に、仕事増やしてくれって頼んだそうじゃないか。あと、兄さんが街中で宝石店のショーケースに張り付いてたっていう軍の人間の目撃情報があったって。それだけの情報があれば、兄さんがなにしようとしてたかなんて結論を出すには十分すぎると思わない?」
 天に口あり地に耳ありという状況。なんだってんだ。まるでオレが軍人や憲兵に見張られている犯罪者のようじゃないか。だが、オレが犯罪者ではないという点以外は「まるで」ではないのだから、頭が痛い。
「それ、まさかウィンリィは……?」
「当人に知らせるだなんて野暮なことする人いないよ。僕だってこんなことがなければ兄さんたちのことは生温い目で見守るつもりでいたんだ。けど、状況が変わった。僕は口出ししなきゃならない」
「オレたちの問題だ」
 そう言うと、弟は人差し指で上を指しつつ言う。
「知ってるよ、僕たち家族の問題だ。兄さんがフラれるかも知れないっていうね」
 オレは生意気な口をきく弟を睨み付けた。けれど、オレのこの凄みのきいた顔もこいつ相手じゃ少しもききやしなかったし、これで黙る筈がないことは経験上分かっていた。まったく。どうしたらこいつを黙らせることが出来るだろうか?そんなことを考えている間にも、こいつの口はペラペラと動くのだ。
「兄さんの目に見えるものをあげたいって気持ちは分かるよ。でもね、目に見えないものを大切にした結果目に見えるものって愛しくなるものだろう?」
「どういうことだよ?」
「兄さんはどこの誰かもしれない女性に道端でいきなりプロポーズされて二つ返事でOK出来る?」
「出来る訳ねえだろ」
 「どういう状況だ、それは」と思いながらも考えてみる。けれども努力の甲斐空しく、オレの頭の中に浮かんだのはぼやけた像だけだった。有り得ないと思ってることは、日常的に考えないものだから「有り得ない」と言えるのであって、想像だって及ばないものだ。
「つまりはそういうことだよ。『信頼』がない相手と付き合ってなんかいけないだろ?ふたりで見えないものを積み上げていくことって大切なんだよ。目に見えるものだって、積み上げた目に見えない『信頼』があるからこそ贈られて嬉しいんじゃないか」
 それなのに、と弟は続ける。
「それなのに、兄さんは目に見えないものより目に見えるものを優先してウィンリィを傷つけたんだ。馬鹿じゃないの。根っこのない花が咲く訳ないのに」
 呆れたように、けれどもどこか悲しさをその言葉に滲ませて弟はそう言った。そんな様子だったからか、弟の言葉は思いのほかあっさりとオレの心に届いてしまった。
 弟の表現は、的を射ていた。それも、的の中心部を的確に。そして、思う。「きっと、おそらく、たぶん、オレが」と。けれども、反省したところで今更だと思った。今更どうすればいいと言うのだ。その疑問をそのまま弟に投げかける。すると、弟は答えた。
「僕は最初から言ってるじゃないか、謝れって。何を聞いてたんだ、馬鹿兄」
「でも、もう夜だ」
オレは外を指差して言う。すると、弟は時計を指差して言う。
「知ってた?今日はまだ2時間05分03秒もあるんだよ」
 そして、オレの背中を押す。立たされたのは、黒に染まった街への入り口。
「明日じゃ遅いよ。兄さんが道端でいきなりプロポーズされる可能性なんてないに等しいけど、ウィンリィがどこぞの誰かに口説かれる可能性なんてのは十分に有り得るんだからね?その前に、兄さんは謝るべきなんだ」
 彼女がどこの馬の骨かも知れない野郎に口説かれている姿を想像をして、思わずゾッとする。というか、想像出来るという事実にゾッとした。そうだ、それは有り得るかも知れない現実なのだ。そう考えると、謝るのをためらってる暇さえも惜しく思えた。ドアを開けて、街に飛び出す。
 後ろから「いってらっしゃい、帰ってこなくてもいいから、仲良くね」と声がした。「余計なお世話だ」と思ったが、その台詞は口には出さないでおいた。その「余計なお世話」に背中を押されたのは紛れもない事実だから。

 家を出て、彼女がいそうなところを一通り見てまわった。だが、その姿を見つけることは出来なかった。走り疲れてクタクタになり、疲れた体を休めようと、どこぞの店の壁に手をつく。
 ふと見上げると、ガラスに映った汗だくの一人の情けない男の姿が見えた。その男はとても哀れに見えて、思わず苦笑する。そして、気付いた。多分オレは自分のことしか見えてなかったんだ、って。確実なものだと信じて疑わなかった「ふたりの未来」を思って笑ってる自分の姿だけを見て、それを「ふたりの幸せ」だと勘違いしていたんだって。――彼女が泣いてるのにも気付かないで。とんだ幸せの押し売りだ。彼女はちゃんとオレと一緒に居ることを幸せだと感じてくれていた。「ひとり」じゃなくて「ふたり」の幸せを考えてくれていたのに。思えば、彼女は決して我侭なんて言ってなかった。彼女が口にしたのは、望みとも言えるそれだったじゃないか。今なら、思える。「オレが悪かったんだ、ごめん」って。だから、もう一回だけ。もう一回だけチャンスをくれ。信じ難いかもしれないけれども、オレはお前のことが――
 ふと、ガラスに彼女の姿が映った。店の中でその青い瞳を驚いたように見開いている彼女の姿が。飲みかけのグラスが置いてあるのを見るに、彼女はオレが手をついていたカフェバーの中にずっと居座っていたようだった。最初は幻が見えたのかもしれないなんて思いもしたが、すぐに「違う」と分かった。なぜなら、「今まさに彼女に声をかけようとしていたけれども、窓の外に店内を覗く汗だくの不審者を見つけ固まってしまいました」というような男の姿が彼女の傍に居るのが目に入ったから。上品そうな大人っぽい雰囲気が漂うその店の店内に勢いよくどかどかと無言で乗り込む。

店の中にいた人間は汗だくのオレを見て訝しそうな視線を向けた。けれども、ンなモン気にしてなんかいられない。オレを凝視して固まっていた男を押しのけて、勢いよく彼女の隣の席に座る。そして、一言。一言だけ告げる。
「オレは、お前と一緒じゃなきゃ帰らねえからな」
 彼女は一瞬驚いてその動きを止めたが、すぐに「目が覚めた」とでも言うかのように鞄の中を漁りハンカチを取り出した。そして、オレの額にそれを押し付けて言う。
「なんなのよ、その汗。恥ずかしいじゃない」
 怒ったような呆れたような(或いは、その両方なんだろう)そんな調子で、その頬を僅かに染めて彼女は言った。そんな彼女を見て、心の中で思う。
 なあ、信じ難いかもしれないけれど。お前のことが大切で大切で仕方ないんだ。



拍手

PR

Trackbacks

TRACKBACK URL :

Comments

Comment Form