忍者ブログ

カレンダー

05 2026/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

about

当サイトは『鋼の錬金術師』の二次創作サイトです。公式とは一切関係ございません。 同人サイト様に限り、リンク・アンリンクともにフリーです。 http://kotonoha1o6tom.kakuren-bo.com/

プロフィール

HN:
とも
性別:
女性
職業:
社会人一年生

カウンター

アクセス解析

バーコード

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

いつかきっと



09.11.9

edwin パラレル
片想い。月明かりが灯る夜。



 すっかり黄葉した銀杏並木をオレは歩いていた。街灯に照らされた銀杏の木を見上げて機嫌よさそうに「綺麗だねー」なんて呟いている幼馴染と一緒に。ああもう、まったく、こいつは。呑気そうに鼻歌なんか歌いやがって。オレの気なんか知らずに。そう思いながら落ち葉を蹴って歩く。この苛立った気持ちを晴らすために。でも、やはりこんなことで気分が晴れる筈もなくて、人知れず溜め息を吐く。そんなオレを月だけが見ていた。
 今宵は、月明かりが灯る夜。


いつかきっと


 今日はウィンリィと遊園地に出掛けてきた。ふたりっきりで。多分世間で言う「デート」というやつ、なんだろう。まあ、一緒に出掛けるなんていつものことだから、こいつにそんな自覚はないかもしれないが。というか、ないな、うん。ともかくも、このデートはオレから誘った。オレのこの思いの丈を彼女に伝えるために。彼女は「テストが始まる前に遊び倒すのも悪くはないね」なんて言ってあっさり了承した。アルには一ヶ月風呂掃除当番肩代わりということで今回来ることは遠慮してもらった。オレはこの日のために用意周到に準備をしてきたのだ。オレはこれが告白するラストチャンスという心持で今日という日を待ち侘びていた。
 なのに、だ。この女ときたら。「オレの決意なんて興味がない」と言わんばかりに今日は思いっきり遊びに付き合わされた。遊園地は本来遊ぶ場所なのだし、ふたりで楽しむためにここに来たのだから遊ぶこと自体に文句は言わない。だが、乗る乗り物全部が全部絶叫系とは、なんと色気がないことか。女ならもっとメリーゴーランドとかコーヒーカップとかあるだろうが。まあ、オレも彼女も互いにそんなんに興味がないのは今更な話だったけども。そんな訳で彼女に絶叫系の乗り物に一通り付き合わされてぐったりしていたら、いつの間にか夕方になってしまっていた。この時期は夕方になったら暗くなるのもあっという間で。「暗くなったから帰ろ」なんて彼女に言われて反論も出来ずに帰路に着くことになってしまった訳で。当初予定していた「観覧車の中で告白」なんてする暇もなくて。ムードもへったくれもなんも作ることが出来ずに今に至る訳だった。おかげで気分は最悪だった。
「なにぶすっとしてんのよ」
 ふいに彼女が話しかけてきた。
「してねえよ」と言うと、彼女はオレの眉間にその指を向けてきた。そして、オレは自分の眉間に皺が寄っていた事実に気が付く。慌てて眉間を手で覆い隠すが、その甲斐空しくもうすでに彼女の表情は少し曇ってしまっていた。
「今日楽しくなかった?」
 彼女は不安そうに訊いてくる。
「そんなんじゃねーよ」
 そんなんじゃ、なくて。本当は。肝心なことをいつまでたっても言えない自分にちょっと苛立ってるだけなんだ、本当は。そう心の中でひとりごちる。思わず溜め息が漏れた。失望と不安が混ざったようなそんな溜め息。
 すると、それを見た彼女はなにかピンときたらしく、語りかけてきた。
「あんたの気持ち、分かるわ」
 なにを。なにを分かっているというのか、こいつは。なにも分かってねえからオレは苦労してるんだろうが。お前にあと少しでも理解力があればオレだってこんな苦しい思いはしなくて済んだかもしれないのに。心の中でそう呟く。そんなこと思ってるオレに気付きもせずに彼女は続けた。
「再来週からテストだから、暫く遊べないもんね」
 彼女はひとりでうんうん、と頷いている。オレは思わずずっこけそうになった。そして思う。なんだ、なんにもわかってねーじゃねーか、と。残念なようなこれでいいような。鈍感な彼女を前にしてオレはもうなにもかも阿呆らしくなって、とりあえず適当に相槌を打つことにした。
「かったりーな、テスト」
「あたしも嫌。とくに現国とか古文とか嫌だなー」
 彼女は拗ねたように呟く。ふと彼女の前回の文系科目の点数を思い出し、思わず苦い笑いが顔に浮かぶ。彼女は理系科目は得意なのだが、文系科目はからっきしだ。感情だとか状況だとか情緒だとか、そういうのを推測するのがあまり得意なのでないだろう。オレの気持ちを分からないのも成る程ある意味納得だ――そんなことを密かに思った。
「お前はなー、もっと活字とか読めよ」
「うん、分かった」
 皮肉のつもりの発言に、彼女は意外と素直に頷いた。
「ヤケに素直なのな」
「だって、あんたと同じ学校行きたいもん」
 不意打ちの言葉。鈍感すぎる彼女の特に意味なんかないかもしれない、言葉。何気ないその言葉に、なんだか少し、ちょっとだけ、だけど嬉しく思ってしまった自分がいた。ああもう、まったく、こいつは。なんだか胸が高鳴っている自分がいるのに気付いて、オレは思った。「今こそ彼女に想いを告げる瞬間なんじゃないか」って。オレは意を決して口を開いた。
「ウィ
「ねえ、空見て!綺麗!」

 思わず全身の動きが、止まった。呑気そうに「すごいねー」なんて彼女が言っている横で、オレは間抜けそうに口を開けて固まっていた。一拍子遅れて心臓が急にドクドク音をたてて鳴り出したのが分かる。たった今オレの一生分の勇気を使い果たしてしまったような気がした。ああもう、まったく、こいつは。なんて間が悪いんだ。そして感じる。今日はもう無理だ、と。今日のオレにはその言葉を言うにはあとちょっと、ほんのもうちょっとだけ勇気が足りなかった。
「ねえ、見てってば」
 肩を落として俯いてるオレに呼びかける彼女の声に気付いて、渋々空を見上げた。そこに広がっていたのは、溢れんばかりの星の輝きだった。
「ね、綺麗でしょ?」
 そう言って彼女微笑った。それはなんだかとっても。とっても綺麗、で。
「で、なに?」
「へ?」
「なんか言いかけてなかった?」
 ああもう、まったく、こいつはなんて間の悪いやつなんだ。今ふたりの間に流れている空気はロマンチックなムードとかそんなんでないことくらい、オレは分かっていた。どちらかと言えば、刑事と犯人の取調べといったような雰囲気。こんな間抜けな状況でそんな大事なこと言えるか、馬鹿。けれども彼女はオレの返事を待っていた。オレを痛いくらいの眼差しで見つめてくる、青の瞳。「どう返したらいいものか」と少し困って思わず空を見上げた、その時。オレの瞳に夜空にぽっかり浮かんだ月が映った。そして、ふと思いつく。ストレートに好きだなんて言うことは出来ない、けれど。けれども。なにも、ストレートに伝えることはないのだ。息を深く吐いて吸った。そして、意を決して彼女の名を呼ぶ。
「ウィンリィ!」
 彼女は不思議そうな面持ちでこちらを覗き込んでくる。そんな彼女の顔を見据えながら、オレは夜空を指差した。そして、言う。


「月が綺麗、だな」


 彼女は一瞬不思議そうな顔をして、でもすぐに笑顔で頷く。
「うん、綺麗」
「そう言いたかっただけ」
「そっか」
 そう言って納得する彼女を見て思う。ああもう、まったく、こいつは。単純、鈍感女。文系科目が苦手な彼女に向かって口には出さずに、そう毒付いた。けれども、そのおかげで今の言葉を告げることが出来たのもまた事実で。それがまた残念なようなこれでいいような。そんな複雑な思いをオレは静かに胸にしまい込む。
「お前な、活字読むなら、夏目漱石とか読め」
 そう言うと彼女は「気が向いたらね」と言った。オレは思わずまたも苦笑いを零す。

月が綺麗ですね。それは、昔の文章家がとある外国語を日本語に訳した言葉。その言葉の意味に、オレの気持ちに彼女が気付くのは一体いつになるんだろう。それがいつになるにしても、だ。いつかきっと必ずこの想いを彼女に知らせなくては、と思う。その日が待ち遠しいような怖いような。まあ、とりあえずは、だ。その日までにはオレの言葉でこの想いを彼女告げれるようになりたいな、とぼんやり思った。
 街頭に照らされたあかるい銀杏並木を並んで歩く。そんなふたりを月だけが見ていた。



拍手

PR

Trackbacks

TRACKBACK URL :

Comments

Comment Form