カレンダーabout当サイトは『鋼の錬金術師』の二次創作サイトです。公式とは一切関係ございません。 同人サイト様に限り、リンク・アンリンクともにフリーです。 http://kotonoha1o6tom.kakuren-bo.com/ プロフィール
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コトノハ倉庫管理人の二次創作妄想小説倉庫 since 2010.5.18PAGE | 20 18 17 15 14 12 11 10 9 8 7 | ADMIN | WRITE 2010.05.18 Tue 22:41:09 不自然な光景
edwin パラレル 不自然だ、と胸の内で密かにあたしは囁いた。目の前に広がる光景が全て不自然に見えるから、不思議だ。 今、あたしは食卓の席に付いている。少し早めの夕食を食すために。机の上には料理の盛られた皿が並べられていた。彩り豊かに食卓を飾るそれらは全てあたしの手によって作られたもので。けれども毎日夕食を作っている身としてはこの景色自体に何ら違和感はなかった。だって、それは日常の一部とでも言えるような自然なことだったから。あたしと向かい合うように幼馴染が偉そうな顔をして食卓を囲んでいるのも、また然り。その景色自体になんら違和感はない。だってあたしたちは小さい頃から食卓を共にしてきた、一般的に言えば『仲のよい幼馴染』だから。彼の弟は今年から私立の中学の寮住まいをしていて、そのためあたしたちはそれ以来二人で夕食をとるようになっていた。『食卓を囲む』というには表現としてはあまり相応しくはない感その景色は半年を経た今となっては日常の一部と化していたはずなのだ。だから、それに違和感を感じるということはもうない。ないのだけれども。今目の前に映る世界が極めて不自然な光景に思える理由。それ即ち。 「だから、オレと付き合えって言ってんだよ」 彼はまるで当然のことを当然に言っているような口調でその言葉を放った。その言葉を。 窓の向こう側で夕方を告げる鐘が茜色の空の下間抜けな音で鳴り響く。 不自然な光景 なんでこんなことになったのか。あたしはそのことについて鐘の音を聴きながら必死に考えた。 あたしたちは別にさっきまで普通に学校のことの話をしていただけ、なのだ。今日宿題を出されただとか来週からテストだから勉強しなくちゃいけないだとかクラスの男子にメアドを訊かれただとか。そんな他愛のない話を、いつものように。けれども、彼は唐突にその言葉を放った。文脈など一切気にせずに、だ。彼は学年、学校一の天才と謳われている秀才少年だ。その筈だ。けれども、目の前に居る少年に天才少年の面影を見つけることなど出来なくて、彼はただの子どものようだった。ただの子どものようにちっとも論理的でない。一体どんな答えを見出すためにあたしにその言葉を投げかけてきたというのか。唐突過ぎて笑い飛ばすことすら出来なかった。 「言っとくけど」 彼はフォークの先をあたしに向けて念を押すように付け加える。 「言っとくけど、どっかに一緒に行こうっつってんじゃねえからな」 思わずあたしの眉が下がる。彼は一体あたしをどんな風に思っているのだろうか。あたしだってそれが分からない程に馬鹿じゃない。確かに文系の科目は苦手だったりする、けど。でもどう考えたっておかしいだろう。普通告白というものは、海辺とかで波打ち際を歩きながらだとか、放課後の学校でだとか、綺麗な夜景の見える場所で、だとか。そういうシチュエーションで言うものではないのか。彼にそれを言うと「漫画の見すぎだろ」とかからかってくるに違いないが、けれども自分の想像が間違っている、とは思えない。むしろ限りなく正解に近い考えであるし、そうであるべきだとすら感じた。それに、だ。第一。あたしたちは幼馴染の筈なのだ。血が繋がった家族のような、そんなように思わせるくらいに親しい近しい存在。彼はあたしにとっても多分彼にとっても兄弟みたいな存在。兄弟みたいに育ってきた相手に対して彼が「付き合おう」と言ってくるなんて。からかってるんじゃないでしょうね。そう思って見上げた彼の表情は冗談を言っているそれではなくて。幼馴染として年月を重ねていたから、彼が嘘と本当どっちを言ってるかなんてすぐに見抜けるのだ。でも、それはそれでおかしくて、確認するようにあたしは尋ねる。 「あんた、あたしが好きなの?」 「お前はそうじゃない人間にこういう提案出来るか?」 彼は食卓に頬杖をつきながらその眉をあげて言う。そして麦茶を勢いよくコップに注いでそれを乱暴に飲み干した。彼のその態度も言い回しちっとも素直じゃなくて。思わず溜め息がでた。そして密かに思う。多分、こんなんじゃない、と。多分世間一般の告白の瞬間ってのはもっとロマンチックとかそういう空気が充満して、それに酔いしれてしまうなんて感じなんだろう。でも、今二人の間に流れている雰囲気は何の変哲もない極めていつも通りのそれで。ねえ、あんた、それで本当にいいの?とあたしは心の中で尋ねるけれども彼がそれに答えることはなかった。物足りないような瞳で食卓に並べられた食事を眺めている。あたしはそんな彼に向かって訊く。 「あんた、あたしと付き合ってどうしたいのよ?」 すると彼はそれに対して即座にあっさりと答えた。 「別に今まで通りでいいだろ」 彼はまたしても当然なことを当然言っているような口ぶりで、続ける。 「別に今まで通り飯食ってたまに遊んで会話してでいいじゃねえか」 彼のその言葉には少しも迷いがなくて。あたしはふと考える。そんなの。付き合う意味はあるのだろうか。変わらないのならば、このままでもいいじゃないか。あたしは考える。あたしが間違っているのだろうか。それとも、彼がおかしいのだろうか。頭が混乱してうまく回らない。そんな感じだった。あたしはとりあえず会話を続ける。 「それじゃあ付き合ったとして、なんかメリットあるの?」 そう問うと、彼はよくぞ聞いてくれたというように笑った。またもやフォークの先っちょをあたしに向けて、まるで子どものそれを浮かべながら言う。 「中間テストの勉強、見てやる」 ガタッと机が揺れる。それは、あたしが椅子から転げ落ちそうになったのを堪えたため、だった。そんな幼稚なメリットがあるか、と心の中で彼に突っ込みを入れる。 「ちなみに」 彼はあたしを睨むように見て言葉を続ける。 「断ったら一切見ない」 あたしはその言葉を訊いて思わず固まった。それはいくらなんでもフェアじゃないだろう。あたしは少し焦る。あたしの文系科目の苦手さを知りながらそんなことが言えるとは。彼の告白は脅迫に近いと思った。というか。それそのものなんだろう。あたしは彼を睨みつける。けれども、彼は怖くないとでも言うように頬杖をついてあたしを試すかのような視線を向けてきた。 嫌よ、一言告げるのは簡単だった。けれども、躊躇う。あたしは彼といる時間が嫌いな訳ではなかったから。それにテスト勉強が見てもらえないのは、はっきり言って困る。彼に勉強を見てもらえると思って今学期の授業で早弁したり少しだけ眠ったりさぼってきたのだ。というか、正直言うとそれがいつものことで。それでも学年上位の成績を保てているのは彼のサポートがあったかだからに他ならない。頭に浮かぶのは危険信号が点滅する。やばいと思った。そして、焦りながらも考える。彼は「今まで通りにする」と言った。今まで通りの生活で呼称が変化するだけなら、単純に付き合った方がいいのではないか。彼と付き合うだけで、テスト勉強も見てもらえるし、気まずくならなくて済む。頭の中で勘定する。足し算引き算を頭の中でするために黙っていると、彼は言った。 「お前食わねえと料理、冷めるぞ」 彼のその指摘で我に返る。慌ててフォークを握ったが、よく見ると目の前の彼も料理に手を付けていなくて。あんたこそ食べなさいよ、そう指摘すると彼は言う。 「お前が答え言うまで待っててやるから、早く返事言えよ」 有ろうことかカウントダウンなんかし始めた。彼の幼稚で無遠慮なカウントダウンに思わず耳を塞ぎたくなる。それでも時間が止まるなんてことは起きるはずもなくて。心の中で密かに呪う。なんて。なんて横暴なのだ。こんな告白の場面なんてあたしはどんなドラマや小説や漫画でだって見たことない。 ロマンチックという表現とはかけ離れている、というか。文系科目が弱い私には思いつかないけれども、ロマンチックという言葉に対義語があるとしたらそれこそが今の状況を現すに相応しい。「なんでこんなことに」と頭が痛くなる。痛くなったのだけれど、痛いままでもいられないから、その答えを彼に告げた。ああ、こうしている間にも中間テストは迫ってくるのだ。 「分かったわよ」 彼は偉そうに腕を組んで座っていたが、あたしのその言葉にその動きが一瞬止まったかのように見えた。でも次の瞬間には「そうか」とだけ告げた。それが何かを噛み締めるように見えたのは、多分あたしの気のせいだろう。だって彼は次の瞬間にはフォークを手に取って嬉しそうに食事の挨拶をしたから。 「頂きます」 そうして彼はあたしの用意した料理を凄いはやさで手をつけていった。美味い、美味いと言いながら。あたしにしてみれば少し冷めてしまったそれは取り立てて美味しいと言う程美味しいものではなかったのだけれども、多分このぐらいの年の少年なんてみんなそんなもんなんだろう。そんなの気にせずに胃の中に詰め込んでいく。淡々と、でも頬を緩めて。それはいつもの光景で、でも先程までの遣り取りで感じた違和感を拭うことは出来なかった。あたしはなんで「うん」と答えてしまったんだろうな、と思う。冷静になってみれば、彼があたしに勉強を見てくれるのは夕飯を食べさせているギブアンドテイクの関係で、同等の対価を払っている筈だったのだ。そう彼に文句を言おうと思ったが、嬉しそうにご飯を平らげる彼の姿を見れば、どうでもいいか、と思えてしまった。それ程に嬉しそうな彼の姿。 あたしは不自然だ、と思った。なにもかもが。けれども、立ち止まってはいられない。始まりの鐘の音は鳴ってしまったのだから。だから。だから、とりあえずは明日から始まる戦いに備えて彼に倣うかのように私も食事を始める。いつものように、自然に。 それすらも不自然な自然が、そこにはあった。 PR TrackbacksTRACKBACK URL : CommentsComment Form |