カレンダーabout当サイトは『鋼の錬金術師』の二次創作サイトです。公式とは一切関係ございません。 同人サイト様に限り、リンク・アンリンクともにフリーです。 http://kotonoha1o6tom.kakuren-bo.com/ プロフィール
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コトノハ倉庫管理人の二次創作妄想小説倉庫 since 2010.5.18PAGE | 22 21 20 18 17 15 14 12 11 10 9 | ADMIN | WRITE 2010.05.19 Wed 18:02:54 きっと君は泣かない
アルだったらよかったのにと、彼女はそうぽつりと零した。 アルだったら、きっとあたしを泣かせるようなことはしないから、と。 ウィンリィ、それはある意味で正しいよ。けれども、間違っているのだと僕は答えざるを得ない。 だって、きっと。いや、絶対に君は。 僕はそれを知っている。君自身ですら気付いていない胸の内を知ってしまっている。寂しいことに。 きっと君は泣かない 陰鬱な空気が僕らを追いかけてきた。あるいは、僕等らがこの陰鬱な空気を呼び寄せたのか。そんなことはどうでもいいことだった。ともかくも、独特のあの匂いを感じてふと空を見渡せば一面に鉛色が広がっていて、直に雨が降り始めるであろうことは簡単に想像がついた。「僕としたことが」と彼女に気付かれないくらいに小さく舌打ちをする。慌てて脇目も振らずに彼女を追っかけてきたものだから、空を見る余裕なんてなかったのだ。彼女を放って置くことなんて出来なくて、僕はただただ駆け足の彼女を追いかけてきたのだった。――間抜けなことに、傘も持たずに。 僕は「帰ろう」と行って彼女の手を取った。そして、思う。こんなに冷たくなっている彼女をずぶぬれになんかしたら悲しみを通り越して憤りを感じてしまいそうだ、と。誰に、なんて言わずもがな。彼女を追い出させた張本人に、だ。 けれども、彼女はそこから動こうとはしなかった。どこぞの野蛮な兄の振る舞いを真似て「帰るぞ」なんて言って無理やり手を引いていくというような手段を実行するのは、生憎なことに紳士的な僕の意には反していた。そのため、どうしたものかと思案する。 その時、彼女は不意にそれを零したのだった。その頬に小さな雫を伝わせながら。 アルだったらよかったのに、と。 アルだったらあたしを泣かすことなんてないのに、と。 不意に肌に冷たさを感じた。小さな、水滴。それは僕の小さな悲しみだとか切なさの塊が溢れ出したものなんかじゃなくて、空から降ってきたものだと理解するのに少しばかり時間がかかった。頭の中が別のことでいっぱいになっていたから。 僕は、彼女の台詞に肯定も否定もすることが出来かった。彼女の言葉はある意味で正解で、でも、間違いに違いなかったから。彼女はおそらく知らないのだ。僕は胸の内で小さく呟く。 僕は知っているよ。君自身ですら気付いていない事実に。その事実は少しだけ僕の心を痛ませる。僕の上に、彼女の上に。雨は平等に降り注ぐ。急激に強くなったその雨から彼女を守る術はないのだと、僕は知ってしまっていた。僕に唯一出来ることといえば、彼女の手を握って帰りを促すことだけだった。風邪を引くから、と。ねえ、ウィンリィ、お願いだから。ねえ、ねえってば。けれども、そんな僕の祈りにも似た懇願に彼女は首を振る。 僕たちは雨の中でただただ途方にくれるしかなかった。 そんな時。 途方に暮れた僕の瞳に。赤い雨傘が丘の向こう側から近付いて来るのが映った。雨傘に入っているのは、言わずもがな。全ての主犯人物だった。片手にはもう一本青色の傘を携えながら、急いでいるともゆっくりともつかない微妙なペースで僕たちの目の前まで歩いてくる。ああもう、なんて無神経なんだ。僕は溜め息を吐かざるを得なかった。 兄は近付くやいなや、青い傘を手渡しながら一言「ごめん」と告げた。事の顛末を考えれば、それは当然彼女に向けられるべき言葉だった。けれども、それは彼女にではなく僕に向けられた言葉だった訳で。我が兄ながら、その無神経さに僕は感服することしか出来ない。実にお見事、天晴れだ。僕は勝ちたくもないけれども、この兄にこういうところで勝つことはないだろうと心の中で小さく思った。 僕に青色の傘を渡したあとに兄は、彼女の方に向き直りながら自分の傘を傾けて言った。「帰るぞ」と、たった一言を。無神経極まりない兄に対して、彼女が精一杯の憎しみをその瞳に込めて睨んだのが見えた。喧嘩の続きが始まりそうな空気を感じて、僕は少し怯える。ふたりの間に割って入った方がいいかもしれない、とも思った。「止めなよ、ふたりとも」と。けれども、それは僕の杞憂に過ぎなかった。 彼女の睨んだ瞳が、兄さんの赤い傘の中に消えた。 つまりは、兄さんの差していた傘が丁度うまい具合に僕の眼前に向かって傾いてきたわけだ。まるでそれは今のふたりの姿を、決定的な瞬間を僕に見られまいとしているようだった。僕は思わず目を逸らす。目を逸らした先には、自分の泥だらけになった靴が見えて。ああもう、まったく。僕はひっそりと溜め息を零した。 次の瞬間、赤い傘の中から現れた彼女の頬は少し赤く染まっていた。けれども、僕は心配なんかする必要はなかった。それは雨の冷たさによるものではないのは分かりきっていたことだから。 彼女は相変わらず兄のことを睨みつけながら「ばか」だとか「なに考えてるのよ」だとか文句を零していたけれども、その瞳にも口調にもさっきまでみたいな凄みとか怒りは感じられなかった。そして、涙の跡すらも。彼女の頬から綺麗に消えていた。 彼女に、僕に、兄は言う。帰るぞ、とたった一言。結局、兄から彼女に対して謝罪の言葉を告げることはなかった。そんな兄に僕は感服することしか出来なかった。皮肉ではなく。 ぶつぶつ文句を言いながらも同じ傘に並んで入るふたりを見て、僕は思う。 たぶん、僕なら彼女を泣かせることなんてないだろう。彼女を困らせるような我が侭なんて言わない。彼女に酷い言葉を投げかけなんてしない。 けれども。ねえ、ウィンリィ、君は知らないんだ。君がそういう感情を以って、僕を想って泣くなんてことは有りやしないってことを。 ねえ、きっとさ。我が侭を言えるのだって、その癖本当に大切なことは上手に言葉に出来ないことだって、喧嘩をすることだって、喧嘩をしていても同じ傘に入って帰ることだって。きっと、ふたりだから出来るんだよ。 陳腐な言い回しをするとすれば、さ。君の心に雨を降らすのも、傘を差し出してその雨から君を救い出すのも、一人分の傘にそうして窮屈そうにふたりで一緒に入るのも。ふたりにしか出来ないことなんだ。 口喧嘩をしながら、それでも同じ傘に入っているふたりの姿はどこか阿呆らしくて、でもとても微笑ましかった。僕は少し苦い笑みを浮かべながら少し後ろからふたりのことを静かに見守る。 雨脚が少し弱まったことにふと気付いた。けれども、ねえ。ふたりが同じ傘に入っているんだから。雨はあまり好きではないけれど、今しばらくは続いてくれるよう、人知れず僕は小さく祈る。 彼女が僕にそういう感情を以って泣くことは、これまでもこれからもきっとない。 でも、そのことを僕は寂しくも嬉しく思っている。 彼女が愛している人と一緒の傘の下で、最高の幸せを感じて最高の笑顔を見せる。 それがふたりの幸せだから。 そしてさんにんの幸せだから。 *** なんかちょいアルウィンぽくも見えるけど、まあ、エドウィンです。 アルは兄と幼馴染がそういう仲になると多少寂しさを感じるとは思います。 けど、それでも寂しさも嬉しさも抱えてずっと三人一緒に生きてくんだと思います。 ……それにしても、雨に大人しく打たれちゃうくらいに落ち込ませるとか。 どんな喧嘩したんだよと、我ながら思います。 PR TrackbacksTRACKBACK URL : CommentsComment Form |