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当サイトは『鋼の錬金術師』の二次創作サイトです。公式とは一切関係ございません。 同人サイト様に限り、リンク・アンリンクともにフリーです。 http://kotonoha1o6tom.kakuren-bo.com/

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星が降る



09.11.17

edwin パラレル
片想い?星降る夜に。

 


 
 今宵は星が降る夜。流星群が見える夜。だから、オレたちはただただその瞬間を待っていた。街頭のない川縁で毛布に包まりながら、コーヒーと紅茶の入った水筒を用意して、夜食のサンドイッチをつまんで。けれども空に広がるのは流星群ではなく、鉛色に広がる雲に覆われた空。まるでオレの心のようだな、と思った。



星が降る


 不意に静寂が破られる。隣から発せられた「くしゅん」という音によって。オレはその音の発信源に呆れた視線を向ける。もう何度目のやり取りか分からない。彼女はそんなオレの視線を気にもかけない様子(というか、本当に気にかけていないんだろう)で「寒い寒い」と言いながらカップに注がれた紅茶を啜っていた。オレは湯気の出たコーヒーを啜りながら思う。馬鹿め。スカートなんか履いてきて、寒いに決まってるだろうが。彼女の膝には寒さを紛らわすためかひざ掛けが掛けられていたが、それが気休め程度にしかなっていないことを彼女のくしゃみが証明していた。馬鹿め。オレは出かける前に止めたのに。でも、「面倒だからといってこのままの姿で行く」と言ったのも、彼女で。本当に馬鹿だ。そう何度も何度も心の中で繰り返す。そうしてオレは気付かない振りをする。彼女のスカートからチラリと覗く素肌に。そして、それを気付かない振りをする理由に。
 オレはこの頃変だ。この頃動悸や眩暈や頭痛が激しい。苦しくて堪らないんだ。こいつと一緒に居ると。というのも、こいつがあまりにも馬鹿だからなんだとオレは仮説を立てている。例えば、だ。こいつときたら、ここんところ「知らない男子からメアド渡された」だとか「他のクラスの男子からデート誘われちゃった」だとか「クラスの子から知らない告白されちゃった」だとか。そういう要らん報告なんかをオレたち兄弟にしてくる。知らん男からのメアドなんて登録なんかするもんじゃないし、よく知らん男子なんかとデートなんかして楽しいとも思えないし、好きでもない野郎からの告白なんか断りゃあいいだろう。オレがそう言うと、彼女は毎回「そうだよね」と言って、同じように頷くのだった。どこか少し嬉しそうに。馬鹿くさい。オレはお前の保護者でも何でもないし、お前は未成年ではあるけれども一人の人間なんだし、オレたち兄弟の意見を毎度毎度伺うこともないのだ。勝手にすればいい。そう思っている。オレとこいつは単なる幼馴染なんだから。単なる幼馴染、な筈なのに。この頃考えるんだ。お前に彼氏が出来たらどうなるか、とか。オレたちの関係はどう変わるのか、について。お前にもしそういう存在が出来たら、例えば今までみたいに一緒に飯作ったり、この川縁の路をニケツでチャリ転がして走ったり、何気ない話するそれさえなくなるのかなあ、なんて。そう思ったら、息が止まってしまってしまうんじゃないかってくらい苦しくなるんだ。なあ、だから。こんなに苦しくなるのは、お前のせいに違いないんだよ。お前があまりに馬鹿だから。そうだからに違いない。違いない筈なんだ。他に理由があるだろうかと考えて浮かんでくる理由をオレは打ち消すように繰り返す。オレはそう何度も何度も心の中で繰り返す。
 オレの心の葛藤の様子なんてちっとも知らずに呑気に紅茶なんて啜りやがって。今日だってオレの気持ちになんか少しも気付いていませんという様子で、真夜中にオレの部屋に上がりこんできた。「流星を見に行こう」と言って、その両手にバスケットと水筒を抱えながら。オレの聡明な弟は「明日朝練あるし、寝坊したくないから」と言ってこいつの馬鹿な誘いを断った。けれども、優しいオレは彼女の「せっかく作ったのに」という呟きを、用意されたバスケットの中身を、その苦労を無碍にすることも出来なくて。そんなこんなで、川縁でふたりっきりで寝ずに夜空を見上げ続ける羽目になってしまった訳だ。弟のように聡明でない彼女はいつもこんな風にオレのペースを乱すのだ。幼い頃から、ずっと。
「あ!!!!
 そう声を漏らして、彼女はオレの服の袖を引いた。そして、彼女の人差し指が上を向く。オレもそれに習うように視線を上に移した。
「今、星見えた」
 彼女はそう言った。けれども、オレの瞳に映るのは先程の光景とあまり変わらない灰色だけで。
「嘘付け、雲かかって見えねえぞ」
「嘘じゃないわよ、今雲がきれて見えたのに。遅い、ばか」
 なんだよ、それ。オレはまた呆れた視線を彼女に向ける。彼女は悔しそうにその口を結びながら夜空を眺め続けていた。けれども、もう何時間もその瞬間を待ち続けていたのに今更流星群が見えるなんてオレには到底思えなくて。そう考えながらコーヒーを啜ると、カップに注いだそれがもうすでに冷めきっていたことに気付いた。いい加減寒さに堪えるのも限界だ。もうそろそろ帰った方がいいのではないのかと感じ、彼女に問うた。
「なあ、もう帰んない?」
「なんで?」
「だって見えねえし」
「さっき見えたって」
「幻だろ」
 見えないものは、幻と同じようなものだ。ないのに等しい。例えば、自覚しなければその気持ちはないのと同じなように。だから、諦めろよ。なあ。オレは冷めきったコーヒーを飲みきって、荷物をまとめて帰り支度を始めた。すると、彼女はそんなオレに少しムキになったように、言った。

「幻じゃないよ。今見えてなくても、確かにあるんだから」

 彼女のその言葉は、駄々をこねた子供が吐くそれのようだ、と思った。そして、それと同じくらい。駄々をこねた子供に対して大人が吐くそれのように、筋が通っている。そう思った。迂闊にも、そう思ってしまった。見えなくても、事実としてそこにあるもの。それを否定することなんか世界中の高名な科学者や哲学者であっても出来やしないんだ。
 ふと空を覆っていた雲が流れていった事に気付く。そして。

 夜空に星が降った。

「ね?」
 彼女はそう言って微笑った。そして、オレの手を自然と握った。
 オレは思う。オレの体温より低いそれを心底「温かい」だなんて思うなんて、オレはどうかしている、と。どうかしている筈、なのだ。なあ、でも。例えば、流星群が雲の向こう側で降り続けていたように。
「幻なんかじゃなかったじゃない」
 彼女の微笑みを見て、温かくなる体温は否定しがたいもので。オレは「おう」と言って頷いた。曇っていた心が晴れたような気がする。まるで目の前に広がる空のようだな、と思った。
 そうして、オレたちは目もすまに降りゆく星を眺め続ける。

 なあ、きっと。星は降り続けていたんだ。気付いてなかっただけで。昔から、ずっと。
 オレは「傷ついてもしょうがないじゃないか」って思う。例えオレたちの関係が変わってしまってもしょうがない、と。なあ、だって。気付いてしまったんだから。星が降っていたことに。星が今も降り続けていることに。オレは静かにそう思った。星降る夜にふたりで星を眺めながら。



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