edwin(原作)
21巻のお話。CP要素は薄め。 強い少女と弱い少年。
暗がりの中を電球の灯りがオレンジ色に照らしていた。その光がやけに優しく照りつけるのが、オレは気に入らなかった。彼女に顔なんて見られたくなかったから。
目の前で睨みつける青の瞳に言いたいことなんてものは山ほどあった。けれども、その山ほどの言葉の中からであっても彼女を納得させるような決定的な言葉を見つけることが出来なくて、そしてなにより。
オレは小さく舌打ちをした。それから彼女に適当に乱暴な言葉を投げつけて、逃げ出したのだった。オレンジ色の部屋の中から。彼女の青い瞳から。
迎えに行くよ
少し前まで軽口を叩いていた筈のそいつは居間に入るなり「作動不良がないか確認しろ」とオレに言って見せた。オレは軽く機械鎧の手足を右に左に捻る。そうして異常のないことをそいつの目の前で確認した。動作確認を終えてシャツを着込んでいると、そいつは窓の外に広がる暗がりを一瞥してから素っ気なく告げたのだった。
「準備しろ」
オレはそいつに倣って窓の外を覗く。夜空には雲がかかっていて、月は雲にすっぽりと覆い隠されていた。日陰者が移動するには都合がいい。
オレは頷いてみせる。居間に集まっていた皆も頷いて、それから各々が荷物を鞄にまとめ始めた。
オレは何も言わずに機械的に荷物をまとめ始める。そうしながらも、頭の中では別のことを考えていた。ついさっきの出来事のことを。
オレンジ色に染まった部屋の中で彼女はそれを告げた。
この国の皆を救って、オレたち兄弟も元の身体に戻れと。そして帰ってこい、と。彼女はその言葉を躊躇いも臆面もなく言い放ったのだった。彼女の言葉は当事者にしては随分楽観的な考え方だった。物事というものは常に最悪の場合も想定して然るべきなのではないか。それでなくとも最悪な状況であるのに。オレは彼女の楽観的すぎる言葉に少し呆れ、反論しようとした。けれども、反論することはかなわなかった。彼女が納得するような言葉が見つからなかったし、それになによりも。彼女が痛いくらいに真っ直ぐにオレのことを見据えていたから。
彼女の青い瞳はオレの不安とか恐怖だとかをすべて見透かしているようだった。強い想いを秘めているかのようなその瞳を見てオレは驚く。オレたちは長い旅路の中で紆余曲折を経て「もう二度と目の前で大切な人を失くさない」とオレたち兄弟は誓った。だから、最悪の事態を考慮して家族を守るために提言したのだった。それは逃げなんかでは決してなくて、万が一を考えた当然のことだった。当然のことな筈だったのだ。けれども、目の前にいる彼女の瞳は戦うことを決めた人間のそれで、オレたちの覚悟なんて矮小なものだったと思わせるような澄んだ青色をしていた。オレはそれがひどく悔しかった。
オレはずっと彼女を家族を守りたいと思っていた。けれども、オレの弱さをもすべて見透かしているかのような強い瞳を他ならぬ彼女が持っていたことが、そうしてオレが彼女のように強くなりきれなかったことが悔しくて堪らなかったのだ。彼女に反論をするということもオレの弱さを肯定することに他ならなくて。
だから、オレはあの部屋から逃げ出したのだった。
荷物をまとめ終えて、鞄を閉じる。そしてオレは人知れずそっと深呼吸をした。息を大きく吸ってゆっくりと吐く。そうして「弱気になるなんてオレらしくない」という彼女から受けた叱責の言葉を飲み込んだ。
そうだ。オレは何より弱い自分が嫌だった筈なのだ。だから、この旅を始めたのだ。この旅の中で誰も失わないで守り抜くと誓ったのだった。オレはオレたちを救ってくれたみんなの笑顔が見たい。弟の笑顔が見たい。彼女の笑顔が見たい。オレはオレを裏切りたくない。なにもかもを諦めたくなんかないのだ。万が一も億が一もない。オレは目の前の大切な人を守る。自分の想いを覚悟を誓いをそうして今一度噛み締めた。
気持ちに整理を付けてから、オレは手袋を嵌めた。機械鎧に手袋を嵌めていたその時。機械鎧の整備の片付けが終わったのか居間に来た彼女の姿に気付いた。思わず振り返って見た彼女の顔は心底不安そうなそれで。それは先程まで威勢のいいことを言っていた女のそれなんかじゃなかった。オレは思わず苦い笑いを零す。ああ、そうだ。彼女だって本当はすべてを見透かすことが出来る瞳なんて持ち合わせていないのだ。
心配そうな彼女を横目に思う。きっとオレも彼女もそんなに強い人間なんかじゃない。オレは彼女がオレたちの捨ててきた荷物をわざわざ拾い背負って泣くような愚かな人間であることを知っているし、オレは彼女の苦しみの一つも解いてやれないような無力な存在であることを知っている。けれども、彼女のその愚かな行為はオレたちは救われていた。それに、オレはオレンジ色が照らすあの場所で約束を交わしたのだから。オレたちの誓いがどんなにちっぽけで意味のないものであっても、あの時のあの約束がある限りもう二度と彼女に悲しみの涙なんか流させるわけにはいかないのだ。
本当はオレも彼女も強くなんかない。強くなんかないんだ。けれども、お互いがお互いの力になっているから。きっと、オレたちは弱くなんかない。
靴のつま先で二回地面を叩く。そうしてオレは旅立ちの準備を終えた。
「行くぞ」という声に促されて俺たちは荷物を担いで表へと出た。心配そうな顔をしたばっちゃんと彼女が軒下に並んでオレたちのことを眺める。オレはそんなふたりに礼の言葉を告げる。彼女の顔には相変わらず心配そうな色が浮かんでいて、「どうしたもんかな」なんて思いながら言葉を探す。
ふと、彼女の金色の髪に光が反射して淡く輝いていることに気付いた。空を見上げると雲間から月が覗いていて。その月は驚くほどに綺麗にだった。
夜空に淡い光が差す。それは小さな小さな希望のようでもあった。日陰者の移動には少し都合が悪いけれども、それを見て少しだけ気が軽くなる。闇夜を照らすそれは確かにある。微かでも、確かに光はあるんだ。あるんだよ。例えば、そう。彼女が旅が終わったら食べさせてあげると約束したそれだとか、さ。
オレは強くて弱い彼女に声をかけるべく彼女の方へと振り向いた。
なあ、すべてが終わったら絶対にさ、迎えに行くよ。
お前にはオレたちの荷物は重すぎるかもしれない。だけどさ。もう少しだけそれを抱えててくれ。
すべてが終わったその時にお前の抱えてる悲しみもつよがりもオレが落としてきたものも、それごと全部迎えに行くよ。
迎えに行くから、だからさ。
オレは余裕そうな笑みを顔に浮かべる。彼女の青の瞳には本当の本当はオレの弱さなんてすべてお見通しなのかもしれないけれども。それを知っていても、オレはいつも通りにつよがりを抱いてその言葉を告げる。
「アップルパイでも焼いて待ってろ」
その言葉に青の瞳が優しく微笑って頷く。
そうして月明かりの下でこの長い旅路の最後の誓いを立てた。
***
なんかうまくまとめれた気がしないけどあげちゃいます、すんません。
ウィンリィは強くなんかないけど、弱くもない女の子で。
覚悟っていうよりは、どこまでも兄弟のことを「信じてる」んだろうな……って思います。
で、エドは強いけど、弱い男の子で。
でも守るものがあるから強くなれるんだと思います。
うん、そんなお話。

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