真夜中、風の音を感じて目が覚めた。壁に掛けた時計を見やるとまだ夜中の2時で、辺りには黒の世界が広がっている。カーテンの隙間から覗く月の明かりが少しだけ眩しくて、目が眩んだ。なんだってこんな時間に目が覚めてしまったのか。そう思いながら、シーツを引っ張って再び瞼を閉じようとした。
ふと、視界の端に隣で眠っていた彼女の背中が映った。月明かりが彼女の肌を優しく照らす。そのせいか、彼女の肌は驚くほどに白かった。美しい白。雪のような純白。
彼女を見て、オレはそう思ってしまった。死んでるんじゃないのかって。
白雪と魔女と毒林檎のパイ
薄暗い闇が覆う景色の中、不明瞭な意識のままでぼんやりと思う。
なあ、もしかして。お前が昼に作ったあのパイの林檎。あの林檎は毒林檎だったんじゃないのか。
思わず彼女の首筋に触れた。彼女の首筋はオレが思っていたような温度では決してなくて。規則正しく脈打つそれを指先に感じて安堵の息が漏れた。
そうだ。あの林檎は、昨日隣の奥さんがくれたもので。まさか、あの人がこいつのあるかないかもよく分からない美貌とやらを妬むなんてことは在りはしないだろう。それに、だ。あの林檎のパイは彼女が作ったものだ。仮に奥さんがくれた林檎が毒林檎じゃなかったとして。自分で作って食べるそれに毒を入れるほどこいつは酔狂なやつじゃないだろう。
そこまで考えて思う。というか、オレはどうして毒林檎だなんて思ったんだっけ。寝ぼけているのかもしれないないな。枕にしていた片手で頭を掻きながらそうひとりごちる。そうしてシーツを引っ張って再び瞼を閉じようとした。
その時、彼女が身じろぎをしたことにふと気付く。オレの手は彼女のそれよりも温度が低くて。ああ、冷たかったかもしれない。そう気付いて、彼女の首に置きっ放しにしていた右手を慌ててそこから離した。けれども、それは手遅れで。
彼女はその身体を一瞬震わせて、それから少し間を置いてからゆっくりとその瞼を重たげに開いた。そうして、ゆっくりと顔だけでオレの方を振り向く。彼女は金色の髪を抑えながら、その小さな唇を動かして問うた。
「なに?」
気怠げな彼女の姿を見て少し罪悪感が湧く。オレは彼女に静かに詫びる。「ごめん」と。
オレの言葉を聞くと、彼女はその小さな手で瞼をこすってみせた。そして彼女はシーツを引っ張ってその白を隠しながら、重たげに身体の向きを変えてみせる。今度はオレの瞳を見て、問う。
「どうしたの?」
オレはなんでねえよ、と言いたかった。けれども、彼女の瞳はなにもかを全てを見透かしたように澄んでいて。彼女の前で虚勢を張ることなんて、少なくとも今は無意味だった。だから、オレは正直に告げる。
「さっき起きたらさ、お前あんまり白くて」
「……うん?」
「息してるかと思って」
それを聞くと、彼女は少し声をあげて微笑って見せた。それからオレの頭に左手を伸ばして撫でてみせる。まるでそれは子どもを宥めるようなその仕草で。オレは少しむっとなった。眉間に皺を寄せながら彼女に言う。
「なんだよ」
「あんた、子どもだね」
「なんだよ、それ」
「よく言えば、純粋?」
純粋は言いすぎかと彼女は笑った。なんだよ、笑うな。オレの心が子どもの心みたいに綺麗なことに異論はない。けれども、褒めるなら素直に褒めろよ。そう言おうと口を開こうとした。けれども、彼女の言葉がオレのその言葉を遮る。
「あんたのそうゆうところ、羨ましいかも」
彼女はその瞳を細めて静かに微笑う。月明かりに照らされた彼女の微笑は驚くほどに眩しくて、目が眩んだ。
そして思うことは。
なあ、もしかしてお前、やっぱり。毒林檎をあのアップルパイに入れたんだろう?
彼女の微笑みはまるで魔女のようなそれで。オレは確信を確証をそれから得る。
白雪は魔女の妬みを受けて毒林檎を受けた。
なあ、つまりはさ。お前もオレが羨ましかったんだろう?オレみたいな綺麗な心が。そんでもってさ。羨ましく思うってのはさ。つまりお前はオレのことを。
思わず頬が緩む。
なあ、お前がオレに毒を盛っていてもさ。オレはお前を赦して、それを受け入れるよ。お前に免じて。
オレはただただ純真無垢な心を以って、黒に染まった世界の中で一際目立つ雪のように白いそれを強く引き寄せた。
そうして猛毒を頬張る。
その毒の甘さは驚くほど強烈だった。
まるで目醒めの瞬間、みたいな。
***
下書きの段階で「非公開設定」してなかったために、短期間あがってました、すみません^^;
王子様不在の物語ですけど、それでよいと思います。
エドは王子様じゃないし。
てか、このエドは純粋ではあっても純潔ではありません。

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