カレンダーabout当サイトは『鋼の錬金術師』の二次創作サイトです。公式とは一切関係ございません。 同人サイト様に限り、リンク・アンリンクともにフリーです。 http://kotonoha1o6tom.kakuren-bo.com/ プロフィール
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コトノハ倉庫管理人の二次創作妄想小説倉庫 since 2010.5.18PAGE | 67 69 68 70 66 65 61 58 57 56 55 | ADMIN | WRITE 2010.11.22 Mon 00:40:38 或る旅人との物語
エドがいなくなる。行ってしまう。パパからそのことを聞いたとき、あたしは目の前が真っ暗になった気がした。 エドがいつかいなくなるのは、分かってはいたことだ。分かってはいたけれども、あたしは悲しみに押しつぶされそうだった。それ程までに、エドはあたしにとって大きな存在になっていた。 あたしが生まれ育ったこの街は、これといった特徴もない。生活に困らない程度にそこそこ栄えていて、そこそこ自然が豊かで、皆穏やかで優しい。一言で言えば、「平凡」そのもの。あたしは生まれ育ったこの街が嫌いではないものの、あまりに平凡すぎて飽き飽きしていた。言葉を換えれば、心底うんざりしていたのだ。 だから3ヶ月前の満月の晩にエドがパパを訪ねてやって来た日、あたしはドキドキして仕方がなかったのだ。月明かりに照らされて光る金色の髪と瞳は、あたしが今まで見てきたどんなものよりも綺麗に見えた。あたしは自分の茶色の髪を弄りながら、ドアの隙間から父さんと話しているエドの姿をこっそりと見つめていたのだ。不意に、エドの瞳があたしを捉えて、そして微笑った時。あたしは確信したのだ。「きっと、エドならこの街の退屈な生活に変化を齎してくれる」って。そう思える程に、あたしの瞳にはエドが魅力的に映ったのだった。 あたしの予感した通り、エドと過ごした3ヶ月はとても刺激的なものだった。エドは研究の合間や夕食の時に旅の話をしてくれた。例えば、汽車の中でテロリストと戦った話、密林の奥地にまで足を運んで未知なる生物を見つけた話や、海で5~6メートルもする巨大な魚を釣り上げた時の話なんかを。それらは嘘みたいな話だったけど、エドは嘘をついてないなんてことはその瞳を見れば分かった。旅の話をする時、エドの金色の瞳が格別に輝いていたから。 3ヶ月という時間は、あたしをエドに夢中にさせるには十分すぎる時間だった。実際は3ヶ月でも、100年一緒にいると思えるような、そんな魔法のような時だった。永遠にも思えるような時間の中で、あたしはエドにすっかり惹かれていた。 大人に言わせればあたしのこの想いなんて「思春期の戯言」ってやつに過ぎないんだろう。でも、思春期の戯言だろうが何だろうが、あたしはそれでよかった。あたしは刺激的な日々を望んでいて、目の前にはエドがいた。あたしは、エドに恋をした。その事実だけがあたしにとって重要で。この恋が本気かどうかとか、叶うかどうかなんてことは些細なことだった。あたしは、今という時を楽しみたいだけだった。今という時をエドと一緒に過ごしたいだけだったのだ。 だから、嫌だった。エドが手の届かないところに行ってしまうことが。そして、平凡で退屈な毎日が戻ってきてしまうことが、あたしは嫌で嫌で仕方がなかったのだった。 或る旅人との物語 あたしは、エドを引き留めたい一心で扉の前に立つ。軽く深呼吸を繰り返す。そして、あたしは覚悟を決めた。 エドに宛がわれた部屋を力強く二回ノックする。そして、あたしは彼の返事を待った。けれども、彼からの返事はなくて。あたしは返事を待たずにそっとドアを開いて、恐る恐る中を覗いた。 「エド?」 部屋を開けると、窓が開け放たれていたのが真っ先に目に入った。風が吹いているようで、カーテンが静かに揺れている。テーブルやソファーの上には至るところに錬金術の本や書類が散乱して置かれていて。あたしは「まるで泥棒が荒らした後みたい」と言って思わず苦笑を零す。けれども、これでいいのだとあたしは思う。几帳面に片付けられた部屋よりもこの方がずっとエドらしい。あたしは、エドのこういうところが好きだった。大らかで大雑把で細かいところに捉われないようなところが。 エドは部屋を留守にしているようで。「おそらくパパの書斎に資料を探しに行ったんだろうな」とあたしは推察する。エドは研究熱心で、部屋にいない時は大抵書斎の中に閉じこもっていたから。あたしは、パパの書斎にエドを探しに行こうと思った。けれども、それより先に「窓を閉めなきゃ」と判断した。このままでは元々汚い部屋がさらに汚くなってしまう。 仕方ないなあ、とひとりごちてあたしは部屋の中に踏み入る。すると、窓の近くのソファーが目に入った。もう少し正確に言うとするならば、ソファーの上に紐で束ねられた本が目に入る。あたしは、途端に胸が苦しくなった。 パパの言う通り、エドは直にいなくなってしまう。少しずつさり気なくまとめられていた荷物にその現実を見せ付けられた気がして。あたしは現実から逃れようとするかのように思わず足を引く。すると、その足がテーブルに当たってしまった。その衝撃のせいで、本が書類がバサバサと落ちる音が部屋の中に小さく響いた。 あたしは「しまった」と思って急いで本や書類をテーブルの上へと戻す。そうして一通り拾い終わった後、あたしはまだ何か落ちていないかどうか確認をするためにテーブルの下を見遣る。すると、そこにはエドがいつも持ち歩いている研究手帳が落ちていた。「危ない危ない」と言って拾いあげると、手帳からするりと一枚の紙が舞い落ちる。あたしは思わず溜め息を零して。それからそれを拾おうとした。すると、その紙にはアメストリスの文字が記載されていた。なんて書いているのかさっぱり分からなくて、興味本位で紙の裏側をチラリと覗こうとした。チラリとだけ覗く筈だったのだ。けれども、あたしの手はその紙の裏側を見て止まった。 あたしの視線の先には、金髪で青い瞳の女性がワンピース姿で微笑えんでいる姿があった。あたしの手は、その時すっかり動きを止めてしまっていたけれども。あたしの頭の中は、物凄い勢いで動いていた。議題は「手帳にこの女性の写真が挟まっていた理由」ついてだ。 写真の中の女性は美人ではあったけれども、モデルが着ているような垢ぬけた衣装を着ているという様には見えなかった。それに、モデルというにしては日常の中の一瞬を切り取ったような、自然すぎる笑顔がそこにあった。では、この女性はエドにとってどういう存在なのか。まさか赤の他人の写真を持っている筈もないだろう。というと、この写真に写っているこの女性はエドの知り合いということになる。家族ではないのか、なんて可能性が頭を過るけれども。エドは旅の話をする時、度々弟の話をした。少し腹黒いけれども「たった一人の自慢の弟がいる」のだと言って。だから、彼女がエドの姉だとか妹だとかいう可能性は排除されたのだった。そうして残る可能性は。手帳に挟まっている理由としては最も相応しくて、けれどもあたしが一番信じたくない答えだった。だって、あのエドにそんな存在がいるだなんて! 思えば、エドは恋人がいる素振りなんてちっとも見せやしなかった。恋人がいるだなんてことも一言も言いやしなかった。けれども、恋人がいないなんてことも一言も言いはしなかったのだ。 あたしはエドが錬金術研究に身も心も捧げているような、そんな気がしていた。女なんて二の次で、恋愛に関してはクール適当に割り切ってしているものだと思っていたのだ。勿論エドが今まで恋愛と無縁に過ごしてきたなんて思ってはいなかったけれども。けれども、少なくとも「今はいないだろう」なんて安心していたのだ。なんの証拠もないのに。なかったのに。あたしは俯いて、深い溜め息を吐く。 「この人は本当にエドの恋人なのだろうか?」あたしは顔を上げて、その写真の中の人物と睨めっこをする。けれども、その写真が話してくれる訳もなくて。写真の中の彼女は、ただただ幸せそうにあたしに頬笑みかける。彼女のその表情は、今のあたしとはまるで正反対のそれで。あたしは、酷く惨めな気持ちになった。「あの開いたままのあの窓から紙ヒコーキにして放り投げたら、この惨めな気持ちも少しは楽になるかしら?」なんてあたしはひとりごちる。 写真の中の彼女を見つめながら、あたしは思う。あたしだって負けないくらいにエドのことが好きなのに。エドと過ごした時間は、たった3ヶ月だった。けれども、そのありふれた退屈な日々からエドはあたしを救ってくれた。あたしを毎日笑顔にさせてくれた。彼に貰った恩ならば、彼女に負けないんじゃないか。あたしだってエドにこの幸せな想いを返したい。というか、返すべきではないのか。その機会くらい与えられてもよいのではないか。そんなことを考えながら、あたしはただただ立ち尽くしていた。 「なにしてるんだ?」 不意に、声がかけられる。それは、耳慣れた声だった。あたしが一番望んでいた筈の人の声。あたしは、突然のことに驚いて振り返る。すると、そこには不思議そうに佇むエドの姿があった。 あたしは、慌てて後ろ手に写真を隠す。エドはあたしのその様子を見て不思議そうに首を傾げる。 「窓が開いてたから」 エドはその一言に「ああ」と納得した。そうして「風強くなってきたもんな」と呑気そうに言いながら窓に近づき、少し乱暴な音を立てて閉めた。あたしは「から」なんて、どこか言い訳がましい言葉を使ってしまったことを少し後悔した。けれどもそんなことを思ってるだなんて知られる訳にもいかなかったから。写真を持っているのに気付かれないように体の向きを変えながら、「うん」と作り笑いをしながら頷いた。 エドは窓を閉めると、床に落ちっぱなしの手帳に気付いて「いけね」と言いながらその足を窮屈そうに屈めて拾い上げる。そうしてテーブル上の雪崩が起きそうにない適当な位置にぞんざいにそれを乗せた。あたしはその様子をただただ眺めていた。どう言葉をかけるべきか悩んでいたと言ってもいい。切り出す言葉を選んでいると、エドは微動だにしようとしないあたしに向かって尋ねる。 「まだなにか?」 エドの金色の瞳と目があって。あたしは、思わず唾を飲み込む。言うべきことと言うべきでないことを頭の中で整理したかったけれども、けれどもそんな猶予を与える暇はないのだというかのように彼の瞳は真っ直ぐにあたしのことを見据えていた。だから、あたしは当初の予定通りに。用意してきた言葉を口に出す。 「パパに、もうすぐエドがいなくなるって聞いた」 エドは一瞬驚いた顔をして、それから「そっか」と言って微笑んだ。エドにしては穏やかな微笑みだった。 「黙っててごめんな」 そう言ってエドはあたしの髪を撫でる。3ヶ月もの間にいつもそうしてくれたように。エドの骨ばった右手に撫でられながら、あたしは思う。「あたしは勘違いしていた」のだと。エドがあたしを撫でてくれたのは「年下の女の子」を撫でていた訳などではなかったのだ。多分、14歳の「子供」を撫でていたに過ぎない。あたしは、あたしの恋が叶うなんて思ってはいなかった。けれども、きっとエドにとってあたしはその対象ですらないのだ。スタート地点にすらあたしは立てていなかったのだから。エドにはきっと特別な存在がいるのだから。エドの温かな右手は、あたしに貸されていたに過ぎない。あたしのものにならない。その事実を思い知らせるかのように、エドは躊躇いなくあたしの髪を撫でる。 けれども、あたしが悩んでいるのも仮定の話に過ぎないのだ。だって、あたしはエドの口から「彼女がいる」だなんて一言も言われていない。だから、ねえ。あたしはその一縷の望みに縋るかのように彼に問いかけた。 「エドの彼女ってどういう人?」 すると、瞬間エドの手が見事な程にピタリとその動きを止めた。あたしは、その事実を受け入れたくもなかったから。ゆっくりとエドの瞳を覗いた。すると、その瞳は面白いくらいに泳いでいて。まるで「私は動揺しています」と自己申告しているかのようだった。というか、それそのものだった。 ああ、やっぱり。ビンゴだ。あたしは溜め息を吐きたかったけれども。彼にこの想いを知られたらさらに惨めな思いをするだけだと分かっていたから、面白がっている子供のフリを続けた。 「お前、なんで知ってるんだよ」 「彼女いるんだ、意外」 あたしは、茶化すように言葉を放つ。エドは「嵌められた」というかのように、その頬を少し赤く染めながら軽くあたしを睨んだ。「睨みたいのはあたしの方だ」なんてことは、勿論口にも顔にも出しはしない。 「てか、意外とはなんだ、意外とは」 エドは、その眉間に少し皺を寄せて愚痴を零すように文句を垂れた。 「エドは研究一筋だと思ってた」 あたしは相変わらず作り笑いを浮かべてはいたけれども。その言葉だけは本心だった。本心を遠慮なくあたしは言葉を重ねる。 「似合わないね」 わざと無遠慮な言葉を叩きつけたのは、ちょっとした復讐をしたかったからだった。無意識とはいえ、エドは乙女に不幸な現実を叩きつけた。これは、報復をして然るべきではないのか。それくらいは許されるのではないのか。あたしは、そんなことを考えていた。 そんなあたしに対して、てっきりエドは、少しムキになって言い返してくるのかと思っていた。「似合わないとはなんだ!」なんてような言葉を。そうしたら、あたしがそうされたように、エドにも事実を突き付けてやろうと思ったのだ。「エドは、誰かに一途とか、そういうのは似合うタイプじゃないよ」というまぎれもない事実を。 けれども、エドはあたしの言葉にムキになんてならなかった。言い返してくるでもなかった。 エドは、眉間の皺はそのままに。でも、どこか可笑しそうに微笑ってみせたのだった。 「正直、俺もそう思う」 そうして、照れくさい様子を誤魔化すかのように人差し指で頬を掻く。 その仕草は、不自然な程に自然だった。だから、あたしはいぶかしんでしまう。「エドはあたしが思っていた以上に普通の人間なんじゃないか」と。あたしが最も嫌いな「平凡を愛する人間」そのものではないかと。 「彼女のこと、好きなんだね」 あたしは残念そうな響きに聞こえないように、極力嬉しそうにその言葉を放った。すると、エドは「茶化されている」と勘違いしたのか、「うっせ」と言って瞳を逸らしてみせる。その仕草までもが不自然な程に自然で。「あたしが好きな男の人は、こんなに平凡だったのか?」なんて思いながら、意地悪な質問を口にする。 「エドにとって、錬金術と彼女どっちが大事なの?」 エドはそれを聞くと、「それを比べること自体間違ってるだろ」と誤魔化すように正論を返してきた。けれども、あたしは誤魔化されたくなかった。あたしは、せめて「彼女よりも錬金術の方が好きだ」って言って欲しかった。その程度の彼女なのだと、彼の口から告げて欲しかったのだ。そうすれば、少しはこの惨めな気持ちも軽くなる気がしたから。だから、あたしは思わず反論したくなるような言葉を選んで、エドを煽る。 「じゃあ、錬金術の方が大事なの?」 「錬金術の研究は『俺のやるべき』ことだよ」 「錬金術の研究は楽しくないの?」 「楽しいと、楽しくないこと半々だろ」 「でも、錬金術の研究が大事だから旅を続けてるんでしょう?」 「だから、錬金術は『俺のやるべき』ことなんだって」 「じゃあ、彼女はなんなの?」 すると、エドは真面目そうな顔をして淀みなく答えてみせた。まるで「迷いなんかない」というかのように、瞬時に。 「やるべきことやって、さいごに帰る場所」 そうして、エドはどこか寂しそうに微笑んでみせた。けれども、それはどこまでも幸せそうな色を孕んでいた。平凡な幸せを求めている、平凡な男の人の切ない微笑み。 あたしは、その微笑みを見て心底安心した。さっき写真を窓の外に放り投げなかったことを。 ねえ、だって。こんな平凡な人のために、ムキになるなんて馬鹿くさいじゃない。どうせ写真があろうがなくなろうが。エドは彼女のことを想うのだ。エドが恋焦がれてるのは、写真それ自体な訳ではある筈がないのだから。 「100年の恋も醒めるよ」 あたしはそう言って溜め息を一つ吐く。その言葉はエドには、届かなかったようで。目の前で「は?」と間抜けに聞き返してくる。その顔を見て「100年もこの人に恋をしてなくてよかった」なんてあたしは静かに思って笑った。たったの3ヶ月で、恋の呪いから目が醒めた。彼は決して王子様なんかではなかったけれども。あたしの瞳を醒ましてくれたことだけは感謝するべきなんだろうな。あたしは、エドのことをそっと許した。その証を彼に渡す。 「エド、これ落ちてたよ」 すると、彼は目を丸くして。あたしの手から即座に写真を奪い取る。そうして、馬鹿正直に耳を真っ赤に染めながらあたしに問うのだった。 「ちょっ、おまっ、一体……どこで!!!?」 「エドのベッドの上。そういうの、程々にしなよ?」 あたしは唇に人差し指を乗っけて意地悪な笑みを浮かべながら、捨て台詞のつもりでそう言葉を放った。エドはその言葉が示している事実について理解しかねているかのように、ポカンと間抜けな顔をした。その隙を見て、あたしはドアノブを握る。そして、エドが言葉の意味を飲み込むその前に「じゃあね」と言ってその部屋から逃げ出したのだった。 ドアを閉めたその瞬間、「どういう意味だよ!!!?」というエドの声が廊下まで木霊した。あたしは愉快で愉快で仕方なくって、お腹を抱えながら自分の部屋に戻った。それから、ベッドの上で少しだけ泣いた。ほんの少しだけ。そうしてあたしの恋は終わりを告げた。 エドはそれから3日後にいなくなった。行ってしまった。空に浮かぶ月がエドの背中を優しく照らしていた。いつかみたいな満月の晩のことだった。 エドが旅立ってから1年経ったある日、あたしはパパから手紙と写真を見せてもらった。アメストリスのリゼンブールというところからの、パパ宛てに届いたエドの手紙とそれに添えられた写真を。 手紙には、汚い字で拙い時候の挨拶と小さな報告が綴られていた。「結婚しました」なんていう、予想通りの陳腐でつまらないありふれた報告が。 そして、写真には白いタキシード姿のエドが純白のドレスのお嫁さん――勿論あの写真に写っていた金髪で碧い瞳の女性――を抱きかかえていて、そのふたりの周りをエドの兄弟と思われる人や軍の制服を身に纏った人なんかが取り囲んでいる姿が写っていた。 写真に写っている皆が皆、平凡な幸せを祝って平凡な笑みを浮かべている。例外なく、エドもその顔に「幸せです」なんて笑みを貼り付けていた。 「つまらないの」 写真を見て、あたしは思わずそう小さく呟いた。 誰かのことを愛して誰かと結婚するだなんて。平凡すぎる。つまらなすぎる。あたしは思わず溜め息を零した。 それから、一息ついて。急いで作り笑いを浮かべた。そいして、両手を顔の前で組んでパパにお願いをする。 「パパ、この写真頂戴!お嫁さん、とっても綺麗なんだもの」 「エドも幸せそうだし」と小さく付け足して、あたしはパパの瞳をじっと見つめた。すると、パパはあっさりと「いいよ」と言って微笑んだ。あたしは「ありがとう」と言って、パパから写真を受け取る。 写真を受け取る時に、「お前もいつか嫁に行くんだろうな」なんて平凡でありきたりな父親らしいことをパパは小さく零した。あたしはそれに小さな微笑みだけを返す。そうして、スカートの裾を掴みながら階段を駆け上がる。 自分の部屋に戻ってから、あたしは机のすぐ横のコルクボードに画鋲でその写真を留めた。決して外れてしまわないように、力を込めて。 写真を留めると、一歩下がって。腰に手を置きながら、コルクボードに飾られた写真を眺めた。そして、あたしはもう一度呟く。 「本当につまらない男」 そして、あたしは微笑ったのだった。驚く程に穏やかな気持ちのままに。 あたしはまだ若くて。まだ知らないことも多くて。これから多分いろいろなことがある。いろいろな出会いがあるのだ。 あたしは、世の中の酸いも甘いも噛みしめて。そして、コルクボードに飾られた写真の中のエドと彼女みたいに微笑いたい。否、絶対に微笑うのだ。 それがいつになるかなんて、今はまだ予想もつかないけれども。この街はエドがいない以前のように、相も変わらずに平和な時を刻んでいるけれども。でも、いつか。 私もいつか、つまらない恋をする。 *** 最終巻記念ということで、作品を上げさせて頂きました。 11月22日(いい夫婦)ということで、 最後に夫婦を強引に押しこんだのはご愛敬ということでよろしくお願いします。 というか、ツイッターの方で雪のお話書くとか言いましたが、すみません…笑 でもって、エドが主人公にしたお話にヨキの話がないのは、仕様です^^ 1日ででかしてしまった作品なので、後々手直しさせて頂きます。 ありがとうございました。 PR TrackbacksTRACKBACK URL : CommentsComment Form |