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当サイトは『鋼の錬金術師』の二次創作サイトです。公式とは一切関係ございません。 同人サイト様に限り、リンク・アンリンクともにフリーです。 http://kotonoha1o6tom.kakuren-bo.com/

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光の回廊を



edwin(パラレル)
片想い。学パロ。
*「瞑想ぷろんぷちゅ」管理人kuriさんへの贈り物。

 









 欅並木の大通りを明かりがぽつぽつと淡く照らす。暮れの雑踏の中に紛れながらふと腕時計を見ると、その針はまだ17時を少し過ぎたくらいの時間で。近頃は暗くなるのがはやくなったなと、小さく呟いた。けれどもそんな独り言も容易く人混みに流されるのだった
 日が落ちるのがはやくなったからといって、大通りから人々の姿が減る気配はなく。むしろその逆だった。歩道には所々で立ち尽くしている人々の姿が多くあって。クリスマスが近いからか、人々が皆浮足立っているのかもしれない。そんなことを思いながら、気も漫ろに歩を進める。すると、不意に背中に小さな衝撃を感じた。思わず振り返ると、背中の方から乱暴に言葉をぶつけられるのだった。
「痛い」
 ハニーブロンドの頭を押さえながら、碧い双眸がオレを睨みつける。俺に不満そうな視線を投げかけるそいつは、他人なんかではなくて。簡単に説明するのであれば、18年間ご近所として付き合ってきた俺の幼なじみだった。彼女とは、街角で今偶然会ってぶつかったとかそういう訳ではなくて。云うなれば、俺がよそ見をしているところに一緒に前後ろに並んで帰り道を歩いていた彼女がぶつかってきたという、ただそれだけのことだった。彼女は文句を言いたいような顔をしているけれども。しかしながら、俺は感謝されこそすれ彼女に文句を言われる謂れなどなかった。俺は毎日の登下校の際、人混みに飲まれないようさり気なく幼なじみを庇う役目を負っていた。というか。弟に「近頃遅くなることが多いし、ウィンリィが遅くなる時には一緒に帰るように」なんて申しつけられていたから。だから、渋々ではあったけれども俺はそれに従っていた。スパナを振り回すとはいえ、彼女も一応生物学上においては女なのだ。だから、仕方がない。仕方がないのだ。そう自分に言い聞かせながら、俺は毎日甲斐甲斐しく彼女と登下校を友にしていたのだ。それなのに、目の前のこいつときたら「そんなのは知らない」と言うかのように、俺を睨みつけてくるのだった。
 俺は「誰がわざわざ面倒くさい思いをして毎日お前を送り届けてると思ってるんだ」なんて文句の一つでも言おうと思ったけれども。あらぬ考えが脳裏に過った。すなわち、恩を着せたはいいものの彼女にこの役割を拒否されることに繋がる可能性を。そして、俺の代わりの存在が彼女と登下校を共にする、なんて可能性を。恩を着せたはいいもののそんな風な展開に繋がるのだけは御免だと、頭が素早く働いてしまって。結局、文句の一つも言えずに「わりい」とだけ告げた。すると、彼女は「しっかりしなさいよ」なんて暴言を俺に放って。
 そして、俺の謝罪の言葉を聞いて気が済んだのか、彼女は再び「寒い」と連呼しだす。なにが寒い、だ。俺は小さくひとりごちてから、チラリと彼女を一瞥――断じて覗き見などではない――をする。彼女は、制服にコートだけを軽く羽織っているだけのラフな格好をしていた。加えて、彼女のそれは短い丈に直されているわけで。俺は溜め息を一つ零す。それから、先ほどの仕返しを兼ねて彼女に言葉を投げかけた。
「そんだけ短いスカート履いてりゃ寒くもなるだろうが」
 我ながら、反論の余地もないくらいに正しいことを言った筈だった。けれども、そんな正論を前にしてさえ「それは間違っている」と、勇敢にも彼女は反論してくるのだった。
「だって、短いスカート履けるのも今のうちだけじゃない」
 確かに、彼女の言うことはもっともなのかもしれなかった。堂々とスカートを履けるということは、女子中高生の特権であるのかもしれない。教師や風紀委員と対立してまでも守り抜く女子高生としての美学がそこにあるのかもしれない。その美学なんてものは少なくとも俺とはまるっきり無縁のものであって。俺は彼女のその美学に対してどうこう説教するつもりなどなかった。
 でも、と俺は思わずにいられない。出来れば、一刻も早く、早急に彼女のスカート丈が長くなることを。きっと彼女はその鈍感さ故に知りはしないのだ。クラスメイトの野郎共が彼女を「どんな目で見ているか」なんてことを。しかし、もし彼女がそれを仮に知っていたとしても、だ。俺にはどうこうするという権利などないのだった。18年間隣に居続けても、である。俺は愚痴を零す代わりに溜め息を吐く。その溜め息でさえ、人混みに掻き消されてしまう。
 そんな俺を尻目に。彼女は呑気な様子で、俺の上着の裾を引っ張って言うのだった。
「ねえ、エド、どっか寄ってかない?」
 あまりに突然の提案に、一瞬面食らったけれども。俺は、即座に返答してみせた。
「駄目」
「でも、寒いじゃない」
「でも、金の無駄」
「ケチ」
「……絶対駄目」
「絶対ってなによ?」
「絶対」
 彼女は俺の言葉に不満そうな顔をして一瞬黙ったけれども。すぐに、俺を説得しようと再び言葉を重ねる。
「あそこのビルの2階のカフェとかいいんじゃない?」
 彼女は不意にある建物を指さした。彼女の指す先にはヨーロッパを思わせるような上品な外装の建物があって。女が好きそうなところだな、なんて俺はひとりごちた。女は嬉しいけど、男子高校生が払うには値段はそれ相応に厳しい場所なんだろうなとひとりごちた。どちらにしろ、俺には関係のない話だから。
「ページェントの夜、あそこのカフェから外眺めたら素敵なんだって!」
 彼女は羨ましそうにぽつりとつぶやく。俺はと言うと、鼻を鳴らして「ふーん」とだけ告げる。そうして、行くぞと言って歩き出した。彼女の文句が横から聞こえたけれども、それも人混みにかき消されたせいにすればいいだろうなんてそう思いながら、駅までの道を再び歩き始めた。







光の回廊を







 俺は彼女の愚痴を背中で受けながら、人混みを掻きわけて歩く。とはいえ、人が多いせいで自然と歩くペースが落ちる。別に電車の時間まで余裕があったから、それに苛つくでもなかったけれども。でも、いつもより多いそれにふと違和感を感じる。そして「そういえば」と、ある可能性が頭に過った。
「そういえば、ページェントのライトアップっていつからだっけ?」
 後ろを歩く彼女に問いをぶつける。すると、彼女ははたと立ち止まった。彼女の後ろを歩いていた人間は一瞬だけ立ち止まり、少し眉を顰めながら俺の横をすり抜けていった。それを見て、俺は人の邪魔にならないように考え事を始めた彼女をさり気なく道の端っこに導く。
 不意に、彼女はコートのポケットから携帯を出して、開いた。そして、カレンダーの画面を表示する。その日付を暫くの間眺めていたけれでも、やがて納得したように頷いて携帯を閉じた。そして、俺の問いにやっと答える。
「今日からみたい」
 俺はやっぱりかと、胸の内で呟く。そうなのであれば、この時間帯ここにこんなに人がいる理由に合点がいった。いつも以上に人が多いのは、ページェントの点灯式のせいなのだとひとり納得する。
 俺たちの故郷であるこの街は、杜の都として親しまれていて、欅の美しい並木道はこの街の象徴ともなっている。しかし、そんな欅も冬になると綺麗に葉っぱがなくなり、通りは少し物悲しい景色に様変わりしてしまう。そんな物悲しさを埋めるかのように、この時期になると禿げた欅に電球を飾り、夜にライトアップするのだった。そうすると、青葉の代わりに光が欅の木を覆い、茂る。欅の並木が一斉に光を放ち、光が街を照らす。これは、この街の毎年恒例のイベントで市民には「光のページェント」と呼ばれ親しまれていた。近年は他県からも観光客も多く来るらしく、この時期になると街は一層賑やかになるのだった。もっとも、ここで生まれ育った人間にとっては物珍しいものなんかじゃなくて。街に出てライトアップされているのを見て「ああ、今年もこの季節がやってきたんだな」と感じる程度のものでしかなかった。現に、オレもこの行事に対して別段興味など持ち合わせていなかったし、特別にロマンチックな思い出などありやしない。だから、俺はこの行事の始まる日をいちいち覚えてる筈がなかったのだ。
 俺はまだ明かりが点いていない木々に巻きつけられている電球を眺め、「ああ、今年もこの季節がやってきたのか」なんてことをぼんやりと考える。例年通りに。すると、そんな風に感慨に耽っている俺のマフラーを彼女は引っ張ってくるのだった。彼女の無粋な真似に。俺は小言でも突き付けてやろうかと思って、彼女の方を振り向いた。すると、彼女はそんな俺の様子に気付かないかのように、ご機嫌な様子で言うのだった。
「せっかくだから、点灯式見ていかない?」
 彼女の提案を却下する理由を、俺自身は持ってなどなかった。急いで帰る程の用事なんて、特になかったから。しかし、だ。俺は先ほどまでの状況を鑑み、反論せずにはいられない。
「お前、さっきまで寒い寒い騒いでたろうが」
 暗に「帰った方がいいのではないか」という提案を、彼女に対して向ける。彼女が寒いのなんて自業自得だけれども、無理に寒い場所に留まって馬鹿をみることもないだろう、と。しかし、彼女は「大丈夫」と言って微笑ってみせるのだった。そして、俯きながら言う。
「だって、今年で一緒に見れるの最後になるかもしれないじゃない」
 その言葉に俺は思わず黙り込む。オレはその言葉に対して返す言葉が思いつかなかったから。彼女の言葉はあまりに卑怯だった。
 彼女は義肢装具士になる勉強をするため、遠くの街の大学を受験することになっていた。俺は弟のこともあるのではやくから地元に進学を決めており、先月には推薦入試で志望校に無事合格していた。そんなわけで。俺たちは初めて離れ離れに生活を送ることになるのかもしれなかった。彼女が言うように。言われてみれば、彼女が戻ってくる保証などどこなもなかった。必ずしも帰ってこなければならない理由だってない。なぜなら、俺にはそんな権利なんてなかったから。だから、俺は一つだけ息を吐く。そして両手を上げて「分かった」と降参のポーズをしてみせた。すると、彼女は嬉しそうに笑うのだった。けれども、それがどこか寂しかっただなんて。当然、俺には口に出せる筈もなかった。
 

 俺たちはそうして、点灯式までの時間をコンビニで買った飲み物を片手に埋める。俺はホットの缶コーヒーを、彼女はペットボトルのミルクティーを片手にふたりで壁にもたれかかっていた。
 缶コーヒーの温かさは冬の寒さを凌ぐには丁度よくて。俺は両手でそれを包みながら、ぼんやりと通りを眺める。通りは腕を組んで歩くカップルの姿がたまにチラついて、たまに俺は無意識にそれを追ってしまっていた。彼らが羨ましいだとか思ったわけではない。そんなわけでは決してなくて。ただ、考えてしまうのだっだ。「自分たちは彼らのような関係になれないのかもしれない」だとか、「自分たちはこの先どうなるんだろう」だとか、そういうことを。
「ねえ」
 不意に彼女の声が響く。俺はぼんやりとした思考の渦から突然引き戻されたようなそんな感覚を覚えて、慌てて彼女の方を振り向いた。けれども、彼女はそんな俺の様子には気付かなかったようで。俺に構わずに言葉を続けた。
「こうやって点灯式に立ち会うの、初めてかもね」
 彼女の言葉に「言われてみれば、そうかもしれない」と思いながら、「毎年気がつきゃ始まってたからな」と相槌を打った。そうして、昔の他愛のない話なんかを、する。
 俺は話をしながら、ふと考えた。この他愛のない時間も、あと少しだけしか残されていないかもしれないということを。そしてそう思うと、この他愛のない出来事がいかに大事な時間だったかということを気付かなかった己の至らなさを想う。けれども、それに気付いたところで今の自分になにが出来たというのだ。俺たちが今守ってきたこの関係は、18年間という月日の中で築いてきたものだった。逆を言えば、18年間幼なじみという関係を守り続けてきたというわけで。だから、今まで築き守りぬいてきたこの関係を変えることが、正直、少しだけ。そう思っているから、俺は未だに幼なじみという役を演じきっているのだった。そうすることが俺に出来る精一杯だったから。
 ふと、会話が途切れた瞬間。目の前をもう何人目かも知れないカップルが通り過ぎた。彼女はそれを見て、ポツリと呟いた。
「あたし、小さい頃は彼氏と一緒にこれを見たいって思ってたなあ」
 彼女のその言葉に。どう返事をするべきか、一瞬迷ったけれども。
「お前みたいなガサツなやつ、好きになるヤツそうそういねえもんな」
 作り笑いを浮かべて、憎まれ口を叩いた。すると、彼女はオレを睨み返してきた。そこまでは、おおよそ想定の範囲のことで。俺はいつも通りに振舞ってみせる。けれども、彼女の次の言葉は俺の想定の範疇からは外れていた、そんな言葉だった。
「高校入って、何人かに告白されたことはあるわよ」
 彼女はその顔を少し俯かせながら、言う。俺は思わず問い返さざるを得なくて。「まじでか!?」と問うと、「嘘言ってどうすんのよ」と彼女は口を尖らせた。
「俺はそんなん、一言も聞いてねえぞ」
「言ってなかったもの、そういうこと」
 「そういうこと」と、俺は舌の上で言葉を小さく転がす。確かに。俺たち幼なじみの間では、「そういうこと」について話をすることなんて滅多になかった。する必要がないと考えていたからだ。けれども、もっと話をしておくべきだったのかもしれないと、現実を知らされて少し思った。今まで、隠し事といった隠し事が彼女と自分の間にはなかったと思っていたけれども。よりによって、なんて最悪の隠し事をしているのだ、こいつは。けれども、俺にはやはり彼女を責める権利なんてないと分かっていたから。俺は事実を飲み込むために、「まじでか」とだけもう一度呟いた。
「感想はそれだけ?」
 彼女は俺の顔色を窺うかのように視線だけをこちらに向けて、問う。けれども、なにを言えばいいというのか。「お前、結構モテるんだな」だとか「そんだけモテてんなら、彼氏とか作ればよかったんじゃねえの?」だとか。そういう心にもないことを言えば彼女は満足するのだろうか。けれども、それが言葉として出る筈もなくて。俺は、「おう」と短く答える。すると、彼女は「そっか」とだけ小さく呟いた。
 俺は、なんとなく黙り込む。彼女も、なぜか黙り込んだ。なんとなく、気まずくなって俺は缶コーヒーに口をつけた。缶コーヒーは最早生温くなっていて。けれども、俺はそれを飲み込む。口には苦いような酸っぱいようなそんな味が広がって。なんとなく、ブラックを選んだことを後悔した。
 本当は。「誰だよ、お前に告白してきたヤツは」だとか、「いつのことだ」とか、そういうのを聞きたくなかったと言えば嘘になる。けれども、そういうことを根掘り葉掘り訊かれて隣にいる彼女がいい想いになるとも思えなかった。そういう俺の想いをぶつけて、この最後になるかもしれない行事の思い出を汚すわけにもいかないから。俺には言葉を紡ぐことなど出来やしなかったのだ。
 彼女は、沈黙を埋めるかのように「寒い」と呟く。それを聞いて、「やっぱり帰ればよかったかもしれない」と俺は小さく胸の内で呟いた。


 不意に、くしゃみの音が隣で響いた。俺はチラリと彼女の様子を覗く。すると、彼女が暖を取っていたペットボトルは最早空っぽになっていて。彼女はその温度が名残惜しいかのようにそれを触っていたけれども、彼女を温める役割を果たしそうにはなかった。そうして、彼女はまた俯きながら「寒い」と小さく零すのだった。
 俺はその様子を見て、溜め息を一つ吐く。それから、自分の首元の赤いマフラー――今年のバレンタインデイに彼女から義理で貰ったものだ――を外して、彼女の頭に押し付けた。すると、彼女は驚いて顔をあげる。
「エド、いいよ。あたし、大丈夫だから」
 彼女は少し強い口調でそう告げる。そして、俺の腕を押し返してきたけれども。真っ赤に染まった首元はちっとも大丈夫そうじゃなくて。だから、俺は強引に彼女の首元に巻き着ける。
「いいから黙って巻いとけ」
「でも」
 彼女は反論の言葉を言いかけて、すぐ止めた。俺はそれを彼女が降参したのだと捉えかけた。捉えかけたのだけれども。すぐさま彼女は顔をあげて、その碧の瞳を輝かせながら言うのだった。
「じゃあ、こうしようよ」
 彼女は首元のマフラーを外して、少しだけ背伸びをしてマフラーの端っこを俺の首に巻く。「そんなの、意味がないだろうが」と反論しかけた次の瞬間、彼女はもう片方の端っこを自分の首にそれを巻きつけた。彼女は巻きつけ終えるとに、満面の笑みをその顔に浮かべて言う。
「これで、ふたりとも温かいでしょう?」
 俺は、あまりに突然のことで。一瞬思考が止まる。それに相反するかのように、鼓動の音が煩く聞こえ始めた。これでは。こんなのは、まるで。
「周りには付き合ってるように見えるかもね」
 その言葉は、俺の心の声が漏れたとかそういうわけでは決してなくて。俺は思わず縋るように彼女の瞳を見遣る。自分でも情けない顔をしていると、分かった。彼女は俺の顔を見ると、悪戯そうな笑みを浮かべて言葉を続けるのだった。
「なんだったら、今日限定で付き合ってあげようか?」
 なにを言われたのか思考が追いつかなくて、また一瞬停止する。意味を正しく飲み込んだ次の瞬間、俺は思わず彼女に「何言ってんだ」と大声で言い返していた。けれども、その声は裏返ってしまって。彼女はそれを見て「なに焦ってんのよ」と言って笑ってみせた。そんな彼女を尻目に、俺は小さく「勘弁してくれ」と思いながら空を仰ぐ。ていうか、なあ。だって、一日だけとかそんなんじゃなくて、俺は。
 「ごめん」と笑いながら告げる彼女から目を逸らしていると、不意にスピーカーからアナウンスが響いた。これから点灯式が始まるというアナウンスを受けて、皆欅が並ぶ路地の側へと並ぶように立つ。俺は彼女に手を引かれて、適当な位置へと移る。マフラーを巻いたままに。周りの人間の生温かい視線が痛かったけれども、彼女がただただ笑うから。俺は、そのままで居ざるをえなかった。
 そして、光のページェントについてのアナウンスを俺たちは黙って聞いて。暫くして、アナウンスが点灯30秒前を告げる。そうして「10秒前から一緒にカウントをお願いします」と告げた。電子音が10秒前を告げた時、辺りから一斉にカウントダウンの声が響く。その時、彼女は一瞬だけ俺と瞳を合わせて。俺にも大声でカウントするように促す。俺はしょうがないので、大きな声でカウントする。その場にいる人々の声が一つとなって、点灯の始まりを告げる。
「…、6、5、4、3、2、1」
 街に暗闇と静寂が一瞬満ちる。そして、その後に。
 瞬間、煌々とした溢れんばかりの灯りが辺りを照らす。眩いばかりの、月明かりのような柔らかくも優しい灯りが。その様子を見て、あたりには歓声と。それから、人々の微笑が通りを満たした。その様子を見つめながら、俺はふと思った。18年間この街で暮らしてきたけれども、今日ほどこの灯りが綺麗だったと感じることはなかったなと。けれども、それはきっと去年までは単に気付いていなかっただけのことで。もしかしたら、気付かないうちに俺はそれを感じていたのかもしれない。
 俺は彼女の顔を見下ろす。彼女の瞳は光を受けてとても輝いていた。けれども、その瞳に感動以外の色も混じっているのに、不意に気付く。
「泣くなよ?」
 探るように、恐る恐るそう言うと、彼女は俺を見上げて小さく睨む。けれども、その瞳には迫力なんてちっともなくて。彼女の弱さが、浮かんでいるようにも見えた。彼女はその唇を小さく動かし、「だって」と告げる。
「だって、これが最後になるかもしれないって思ったらなんか」
 言葉の途中で彼女は黙り込む。それが、あまりにも悲しそうで。右手が、思わず動く。けれども、そんな「権利はないのだ」と自分に言い聞かせて思い留まる。思い留まったつもりだったのだけれども。
 瞬間、思ってもみなかったことが口を衝いて出た。

「来年も一緒に見ればいいじゃねえか」

 彼女はそれを聞いて、一瞬目を見開いて。そして、一瞬押し黙ったのち、また俺のことを小さく睨む。
「あんた、来年は彼女と見にきたりするんじゃないの?」
 彼女はそう言ってマフラーを片手で押さえながらそっぽを向く。俺はというと、彼女の言葉の意図が分からなくて。でも、「こいつではない、性格も見た目も可愛い彼女」とやらが1年後にいる姿も思い浮かべることなんて出来なくて。それがなぜだか悔しかったから、「うっせ」と短く彼女に言葉を投げかける。そして、それから。自分に言い聞かせるかのように、言葉を紡ぐ。
「来年も一緒に来るぞ」
「来年も?」
「来年も」
「再来年も?」
「ずっとだよ」
 思わず大きな声が出て、しまったと思った。すると、彼女は微笑みながら俺に問うのだった。
「絶対?」
「絶対」
 断言する俺の言葉に、彼女は何かを考えるように黙り込む。俺は思わず確かめずにはいられない。
「嫌なのかよ?」
 すると、彼女は少しだけ驚いた様子で首を横に振った。それが、答えだった。
 俺はその様子を見て「よし」と頷いたけれども。内心では、予想外の展開に少し驚いていたりもした。けれど、それでも別に嫌じゃなかった。嫌じゃなかったのだ。
 かくして、守られる補償などない小さな約束が交わされる。けれども、多分。この約束は守らなければならないものだから。俺は再び灯りを眺め始めた彼女の姿を見ながら、密かにもう一つの誓いを立てる。権利を得るために大切な誓いを。


「そろそろ行こっか」
 飽きそうなほどに長い時間眺めて、満足した彼女がそう告げる。異論もなかったから、俺は「おう」と頷く。そして、俺と彼女でマフラーを繋いだまま歩くわけにもいかなかったから。俺は自分の首からマフラーを外して、彼女の首に巻きつけた。
 歩き始めると、彼女は沈痛な面持ちで「あのね」と告げるのだった。俺は「何事か」と思って彼女の顔を見遣る。
「高校生活の中で、寄り道できるのってあと数十回出来るか出来ないかよね」
「……だから?」
「あそこのカフェ、寄って帰らない?」
 俺はまた溜め息を吐かずにはいられない。まったく、こいつときたら。彼女はどうやら「高校生活最後」という言葉にどうやら味を占めたらしかった。その言葉は、確かに同情の余地がある。情が深い俺には効きすぎるくらい効く言葉だ。だが。しかし。けれども。彼女の思い通りになってやる謂れなどないのだ。なぜなら、最後なのは「高校生活」だけであって、彼女との腐れ縁はずっと続いていく筈なのだから。というか、続けていくのだ。
「嫌だ」
 俺は彼女から勢いよく目を逸らす。まるで「そんなのは知らん」とでも言うかのように。というか、そう伝わるように。そんな俺の仕草に、案の定彼女は不機嫌な声を上げるのだった。
「24日」
 俺は彼女を宥めるかのように、彼女の頭を軽く叩く。彼女はそんな俺を不思議そうな顔で見上げるのだった。そんな彼女に少しだけ微笑って。俺は、出来るだけ自然を装いながら告げる。
「24日に付き合ってやっから」
 すると、だ。彼女は予想外なことをまたもや言い出したのだった。
「イヴは予定入ってるわよ」
 俺は思わず凄い勢いで彼女の方に顔を向けた。彼女は「なによ」と少し怯んだ様子だったけれども。そんなのに構っている暇などなくて。俺は、彼女の顔を睨みつけながらも問う。
「どこのどいつと?」
「誰って、彼氏いない皆で……」
 彼女は俺の質問の意図が分からないような少し困惑した様子で、女友達の名前を淡々と告げた。それを聞いて。俺はひとまず、安堵の溜め息を小さく漏らした。そして、それから告げる。
「その予定、取りやめにしろ」
「なんでよ!?」
 不服そうな彼女に対し、俺は彼女の首元を指さして言う。
「マフラーの分の借り返せ」
 彼女は俺の言葉にムッとした様子で「じゃあ返す」なんて言ってきたけれども。それを返してもらうわけにはいかなかったから、マフラーを取ろうとする彼女の手首を掴んで、言葉を続けた。
「大事な話があっから」
 すると、彼女は怪訝そうな顔をして俺に問いかけてくる。

「絶対?」
「絶対」

 彼女の瞳を見て、力強く頷く。訴えかけるかのように。そうすると、彼女は不満そうにその唇を尖らせたはしたけれども。渋々といった様子で「分かった」と言って頷く。そうして、不意に「帰ろう!」と言って歩き始める。
 彼女の顔を窺うことは出来なかったけれども。彼女の耳は真っ赤で。これ以上彼女が「寒い」なんて台詞を連呼しないためにも、はやく帰らなければいけないなと思って、彼女に続く。人混みではぐれてしまわないようにと、俺は彼女を追いかける。彼女は俺の気なんか知らずに早足で気も知らずに歩いた。まるで、なにも知らないかのように。けれども、もうすぐ思い知ることになるのだ。否、思い知らさなければならない。18年間の彼女との関係は、きっとそう簡単に壊れやしないのだから。
 そうして、彼女に追いついて。小言を交わしながら、またふたりで並んで歩き出す。希望の色にも似た、光の道を。決して流されないように、ふたりで並んで。
 これからもずっと、歩いていく。














***
私的な感情をたんまり込めて書かせて頂きました。
管理人は杜の都に住んでたりするのですが、
今年度いっぱいで地元帰るので、その記念でもあったりします、すみません……笑
「S.E.N.D.A.I.光.の.ペ.ー.ジ.ェ.ン.ト」で調べて頂けると、
行事について理解を深めて頂けると思うので、是非調べてみて下さい^^*笑
てか、この行事。
例年通りなら12月12日からなんですけどね……。
そういう理由もあり書き始めたはいいものの、今年は25周年記念ということで、12月3日からでした^o^
けれども、作中では12月12日からだったということで許して下さい。
あと、前書いたやつとネタ被ってるのは語愛嬌と言うことで見逃してくださいお願いします……笑
まあ、そんなお話です。




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