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当サイトは『鋼の錬金術師』の二次創作サイトです。公式とは一切関係ございません。 同人サイト様に限り、リンク・アンリンクともにフリーです。 http://kotonoha1o6tom.kakuren-bo.com/

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シンデレラとガラスの靴



09.10.27

edwin 原作(未来?)
片想い。王子になれない男の子とシンデレラになれない女の子。

 



 時計の針はもうすぐ真上を指そうとしている。そして、時間を確かめるために眺めたその視線の先にでさえ、溢れかえるそうな数々の人々がいる。それを見て思わず溜め息が零れた。
 
軍部のパーティーの招待状が届いたのは、丁度2週間前のことだった。そして、その手紙には大佐(もう大佐ではないが)からの手紙が添えられていた。手紙には『来ないと520センズに利息を付けさせてもらう』なんて冗談か本気かもよく分からない内容が綴られており、「招待状ではなくて脅迫状の間違いではないのか」と、思わず疑いたくなった。そのため、行きたいとは更々思ってはいなかったが、来ざるを得なかったのである。
 気が進まないままに参加したパーティーではあったが、目の前に用意された食事は三ツ星レストランのシェフが用意したとかいう自慢の品々なだけあり(食べにくかったが)美味しかったし、華美なドレスを身に纏った女性は(興味はないが)綺麗だとは思ったし、音楽家が奏でる音の響きは(どうでもいいが)心地よかった。そのせいか、人々はどこか興奮していた。まるで「皆熱におかされているみたいだ」と、思った。その『熱』は、決して悪い類のものではない。今日のパーティーは、思っていたよりも悪いものではなかった。
 だが、パーティーというものにそれだけの美点を挙げることは出来ても、「何が楽しくて軍の関係者(特に大佐)に会わなくてはいけないのか」だとか、「ネクタイは首輪を付けられているみたいで窮屈で息苦しいだ」とか。それだけの理由があれば、オレはもう十分に「パーティーなんか嫌いだ」という結論を出すことが出来るのだった。だけど、今夜は、パーティーが嫌いになる理由に、もう一つの要因が加わっていた。それ、即ち。
「ウィンリィは何処いるんだよ?」
 そう、ひとりごちる。勿論、大多数が他人のこの状況でオレの問いに答えてくれる奴なんていなかった。 
 さっきまで一緒にいた筈のパートナーが見当たらない。見知らぬ誰か(軍人なのには違いない)に話しかけられて目を放した隙に彼女は消えてしまったのだ。彼は、不安だった。「幼馴染が隣にいてくれないと心細い」だとかそんな理由で不安な訳ではない。断じて、ない。では、何が不安なのか、というと。今日、彼女の名前を尋ねてきた野郎が信じ切れない程いたから、だった。『馬子にも衣装』とはよくいったもので、今日の彼女はいつもよりはちょっとだけだけれども、可愛かった。彼女曰く、「もしかしたら、王子様が見初めてくれるかもしれないでしょ」ということで、いつもよりも上等な服と靴、ナチュラルだがいつもと違って見えるようなメイクでしっかりとキメてパーティーに挑んでいたのだ。だが、正直なことを言うと。例えオウジサマだろうがなんだろうが、何処の馬の骨かもしれない輩と彼女がくっつくようなことになったら、困ると思っていた。そんなのアルとばっちゃんに合わせる顔がない。だから、仕方なく(あくまでも、仕方なく、だ)彼女から悪い虫を追い払うなんていう、一文の得にもならない役割を引き受けていた(とは言っても、誰に頼まれた訳でもないが)のだ。なのに、だ。そんなこととは露知らず、いつの間にか彼女は消えてしまったのである。そんな訳で幼馴染を見つけるべく、辺りを見回す。パーティー会場の中に彼女がいないことを確認するとどこぞの野郎と手を繋いでホテルの一室の中に消えるなんていう最悪な想像が頭を巡った。そんな訳ないとその考えを吹き飛ばすように、頭を横に振る。そして、エントランスホールへと足を運んだ。すると、エントランスホールのソファーに、探していた迷子が座っていた。思わず安堵の溜め息が零れた。


シンデレラとガラスの靴


「勝手にうろつくなよ」
 そう咎めると、ウィンリィは一瞬驚いた顔をしたあとに「ごめん」と言いながら、オレを見上げてきた。必然、オレは彼女を見下ろすことになった訳だが、オレがその時目にしたのは床に転がった靴と、踵の皮がベロリとむけその中から覗くピンク色だった。
「靴擦れかよ」と、思わず呆れた声が出た。
 彼女はまた「ごめん」と言葉を返す。心なしか覇気がないような、そんな感じで。
「今度から張り切ったりしないで、履きなれた靴履いてこいよ。エントランスホールで座ってたんじゃ、オウジサマとやらに見初めてもらえねえぞ」
 軽口のつもりで、言葉を投げかける。だが、返ってくるのはやはり「ごめん」という覇気のない声だった。
 何かあったのか?そう思っていた矢先、彼女はそっと呟いた。
「きっと、シンデレラはすごく運がよかったのよね」
 何か変なものでも食ったのかと勘繰りたくもなるような、そんな発現。一流のシェフが用意した食事なのだから、異物なんて混ざざっている訳がない(ありえないことはありえない?)筈だが、それにしても彼女の発言は唐突だった。どうしたんだ、と尋ねると、彼女は俯きながら話を始める。
「だって、魔女がシンデレラにしか合わない世界で一つの靴を作ってくれたから、王子様は見つけられたんじゃない」
「おう」
「でも、現実にはぴったりの靴を用意してくれる職人を抱えている人なんてそうそういないから、示し合わせたようにぴったりなサイズの靴もなくて、大抵皆既製品の靴を履いてるじゃない」
「そりゃあな」
「だから、もし現実にシンデレラがいたとして、既製品の靴を落としたとして、それにぴったりの靴のサイズの人なんて、大勢いるじゃない。その大勢の中から、王子様がシンデレラを確実に見つけ出す保証なんて、ないのよね」
 彼女の話は突っ込みどころが多いように思えた。さて、どうしたものかと考える。
「あのなあ、シンデレラは御伽噺のオヒメサマであって、現実には存在するはずも――
 そう言おうとすると、彼女は「ただの例え話を言ってるだけよ」と、告げた。
「つか、それがどうしたんだよ?」
「今日、綺麗な人、いっぱいいたね」
 彼女は、ポツリと呟いた。話がいきなり変わったことに困惑するが、元気のない彼女の姿を見、とりあえず同意の言葉をかける。
「そりゃ、パーティーだからな」オレがそう返すと、まるで呆れているかのような口調で「鈍感」と彼女が言ったのが聞こえた。
「何がだよ」
「分かんないなら、いい」
 何だよ、それ。訳の分からない言いがかりを付けられた気分だ。ていうか、そういう状況だろう。訳の分からない話に付き合わされた上、ケチをつけられた。説明すらナシだ。そのことに少し腹が立って、たまらず言い返す。
「お前な、まずオウジサマとやらに靴拾って探し出してもらいたいんだったら、ぴったりのガラスの靴とは言わないから、せめてサイズにあった靴を選ぶべきじゃなかったのか?」
「だって、この靴がよかったのよ」
 彼女の床に放り投げられた靴を見やる。確かに彼女の服装に合った靴では、あった。だが。
「デザインは悪かねえが、靴ってのは機能的であるべきだろうが。デザインが気に入っただけで買うなっつーの、馬鹿」
 すると、「だって」と、彼女は拗ねているような口調で呟いた。
「ヒールが低くて、可愛いの、これだけだったから」
 沈黙が二人の間に流れる。なにも言わなくなってしまった彼女と、なんて言えばいいか分からないオレとが向かい合っているこの状況。
 沈黙の間、オレは「馬鹿じゃねえの」と考えていた。なんとなく、彼女の言いたいことが分かってしまったから。お前の身長なんてとっくに抜いたっつーのに、変な方向に気を遣って。お前の気遣いは、いつもどこか的外れだ。そんでもって、ほんの少しだけ。少しだけだけど、その優しさに嬉しくなる自分がいるのだから、敵わない。
 オレは、ポツリと呟いた。
「現実にシンデレラがいたとしても、お前はシンデレラになれねえよ」
「何よそれ」
「分かんないなら、いい」
 分かんないほうが、いい。そう言うと、その気なんかなかったのに、口の端が自然と緩んだ。頬にさっきまで感じてなかった筈の熱まで感じる。それに気づいて、この熱はパーティー会場のあの熱を貰っちまったせいかもしれないな、なんて考える。これだから。これだから、パーティーなんてもの嫌いなのだ。時計の針が真上を指す前に、この頬に感じる魔法がとけてしまう前に、彼女の痛々しい足に絆創膏でも貼っつけてさっさとおいとまするとしよう。そう提案しようとして彼女の顔を見やる。すると、その顔は「気に入らない」とでも書いているような、そんな表情をしていた。
「どうせ、お姫様なんてガラじゃないわよ」
「格好だけは、オヒメサマっぽいぞ。馬子にも衣装ってやつだな」
「どうせ、格好だけよ」 
 フォローの言葉にも不貞腐れた様子の彼女に内心苦笑いしつつ、言う。
「でも、似合ってる」
 そう言うと、彼女は一瞬驚いた顔をして、真っ赤になって「何よそれ」と可愛げのない台詞を吐いた。
 その顔を見て思う。単純、鈍感女。
 お前は、シンデレラにはなれねえよ。だから。だから、とりあえずは。オウジサマにお前が見つけられないのを安心したりしてんだ。

お前の出会いを奪うのはオレのエゴかもしんないけど、そのお詫びと言っちゃあなんだが、今度ぴったりの靴を買ってやるから。だから、許せ。王子の隣には似つかわしくないかもだけど、お前に一番似合いの、ちょっと低めのヒールの靴を買ってやるから。



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