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当サイトは『鋼の錬金術師』の二次創作サイトです。公式とは一切関係ございません。 同人サイト様に限り、リンク・アンリンクともにフリーです。 http://kotonoha1o6tom.kakuren-bo.com/

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路地をかける



edwin(パラレル)
「天に架ける」の続き。






 先ほどまで大輪の菊の花に彩られていた夜空は見る影もなく、どんよりと鉛の色に染まっていた。しかし、だからといってそれを憂うでもない。落ち込んでいた気分は、他愛もない時間が紛らわせてくれたから。俺は、幸せな筈だから。
 けど。けれども。思わずにはいられない。俺は真横に並ぶ彼女の林檎飴をじんわりと静かに溶かす赤い舌先を見つめる。林檎飴は俺の生活費の一部と引き換えに彼女に与えられたものの一つだった。林檎飴を嘗める彼女の頬はすっかり緩んでいて、それは誰の目から見ても幸せそうだった。俺もそれを見て素直に幸せを噛み締めるべきだった。噛み締めるべきだったのだ。しかしながら、今の俺にはいまひとつ幸せを素直に喜ぶことの出来ない理由があったのだ。
 俺は、ほうと静かに溜め息をついた。すると彼女は振り向いて、眉間に軽く皺を寄せて。それから、その空色の瞳を曇らせ言うのだった。
「なによ?あげないからね?」
 彼女の言葉遣いは少々乱暴ではあったが、それは彼女のポーズであることは明白な事実だった。彼女が幸せが故に怒ったふりをしているのだということは。だから、俺も本当に言いたいことは言わず――勿論「あげるも何もその林檎飴は元々俺が買ったものだろ」なんてことも言わずに――彼女がその手に持っている握りこぶし1個分くらいの大きさはあるであろう林檎飴を指差した。
「それ、帰るまでに食べきれるのかよ」
「さあ」
 彼女はまるで「食べ切れなくても問題ないじゃない」と言わんばかりに小首を傾げて微笑っただけだった。なにも先のことなんて考えてないかのような彼女の悪意のない表情に俺は再び溜め息を付かざるをえなかったけれども。なにはともあれ、別々の家までの帰り道を並んで歩く。
 湿った匂いが漂うアスファルトの上にふたりぶんの足音が小さく響いた。





路地をかける




 
 ただ歩いているだけなのに「これでもか」と思うくらい容赦のないこの季節特有の湿気が肌を射す。自然と額から滲み出る汗が邪魔くさくて、俺はハンカチ代わりにシャツの袖で汗を拭う。「家に帰ったらすぐさま風呂場に直行しよう」と胸の内で密かな誓いを立てていると、不意に隣を歩く彼女の声が聞こえた。
「暑いね」
 さり気なく汗を拭っていたつもりではあったけれども、汗を拭う姿はしっかりと彼女の目に留まってしまったらしかった。しかし、彼女のその一言に他意はなかった。そのことを十分分かってはいても、白い七分袖のシャツの黒のスカートというスーツ姿を前にしてはただ一言「暑いな」という無難な言葉を返すことが出来なかった。
「お前に言われたくねえな」
 煙草屋の自販機にさしかかると同時に、俺は言葉を放った。しかしながら、もっと冗談めかして言うはずが、思いの他低い声が出てしまって。そのことにほんの少しだけ焦ったけれども、彼女は臆する様子もなく、ただほんの少し眉根を下げて尋ねただけだった。たったひとつの、核心的な質問を。
「あんた、まだなにか不満なの?」
 いとも簡単に気持ちが見通されるのは、付き合いの長さ故かそれともなにか他の要因があるのか。それは定かではなかった。しかしながら、そんなことはどうでもいいことで。けれども、拗ねたような口調の彼女の問いを俺は否定することはない。その理由が彼女との付き合いの長さにあることだけは確かなことだった。それが少し悔しくもあって。俺はなるべく怒っている顔を作って、彼女を睨みつけた。それが彼女にとってポーズにしか見えないのですら、分かってはいたけれども。だからこそ。
「社会人の癖に、無垢で真面目な大学生を財布代わりに使いやがって」
 それは、嘘ではなかった。生活費から学費まで全てをアルバイトや奨学金で賄っている身にしてみれば、不満を持って当然と言えば当然な「理由」になり得ることではあった。あまりにくだらない理由ではあったけれど、それでも俺が腹の中に溜め込んだ小さな不満を最大の理由にして彼女に素直にぶつけてしまうよりかはいくらかはマシに思えた。
 俺の台詞を聞いた彼女は、その目元に苦い微笑を小さく携えて告げた。
「ちゃんとお返しするって」
 そう言う彼女の頬は、その手に持っている林檎飴のような赤い色に仄か染まっていた。「きっと暑さのせいだろう」と俺は見当をつける。そう思うと「まったく、こいつは」と呆れだとか切なさだとかがない混ぜになったような、そんな想いがまた、勝手に溢れてくるのだった。でも、それだって仕方ないことだった。

 だって、なあ。やっぱり、野郎としては、さ。

 不意に、彼女がまた呟いた。性懲りもなく。
「暑い」
 俺は、またその言葉に苛立ってしまって。だから、仕方ないと思ってしまったのだ。くだらない本音を、さり気なく何気なく零すくらいは。
 俺はコンビニの角を曲がったと同時に「あのさ」と語りかけた。すると、彼女は少しだけ目を見開いて、それから「なに?」と首を傾げる。瞳を合わせるとボロが出そうだから、目線をそれとなく外す。そして頭を掻きながら「どうでもいいんだけどさ」と前置きを置いて自然な口調で話す。自然な筈、だった。

「今度は遅刻してでも浴衣着てこいよ」

「……そんなに浴衣姿見たかったの?」
 俺の努力が簡単に帰したと知ったのは、僅か十秒後の出来事だった。そのあまりのはやさに俺は思わず目を剥ざるをえなかった。そうして考える。いとも簡単に気持ちが見通されるのは、付き合いの長さ故かそれともなにか他の要因があるのか。それは定かではなかった。けれども考えたところで答えが出るわけではなくて、自分に出来たことと言えばただただ「うるせー」と憎まれ口を叩いて彼女よりも先に歩を進めることだけだった。そんな俺に置いてかれまいと、早足のヒールの音がすぐ後ろを辿る。
「ごめんね」
 あともう少しで彼女の家との分かれ道というところで、背中から響いた。けれども、俺は別にそんなつもりでくだらない本心を語ったつもりなんかじゃなかった。単なる自分の願いで、欲望で。だから、謝らせたくなんてなかったのだった。
「謝るなよ」
 彼女に悲しい顔をさせたくない一心で、気がつけば勢いよく振り返った。振り返っていた。
「でも、あたし今日スーツでよかったって思ってるの」
 「だからごめんね」と、彼女は小さく言葉を足した。その本位が分からなくて、尋ねると彼女はなぜか細々とした声で答える。
「浴衣って着にくいじゃない。それに……」
 そう言って、言葉の途中で彼女はまた林檎飴を舐めた。答えをなかなか言おうとしない彼女に痺れを切らして、答えを問う。
「で?」
「もう、家着くじゃない。でも、帰るまでに、林檎飴食べ切れそうにないよ」
「は……?」
「林檎飴食べ切らないと、帰れない」
 そう告げる彼女の頬は、やはり彼女が手に持つ林檎の色そっくりで。そのときに、彼女のその頬の色の理由は暑さのせいだけじゃないと分かってしまった。なんとなく。でも、確信的に。
 こどものような、複雑で単純な思考回路をいとも簡単に読み取ってしまったのは、付き合いの長さ故かそれともなにか他の要因があるのか。それは定かではなかった。定かではなかったけれども、もしかしたら、こういう関係になったことも一つの要因なんじゃないか、なんて。そんな自分らしくもないことを考えてもしまった。考えてもしまったけれども。残念な事に、ロマンチックな気分に浸るには大きな壁が出来てしまっていた。
「あの、出店で金が……」
 我ながら情けない顔をしてるんだろうな、なんて思いながら彼女を見つめると、彼女はその少し俯いてその赤い唇を噛んで。それからまた顔を上げると、バッグを俺の前に掲げてはにかみながら微笑った。

「言ったでしょ?お返しするって」

 不意に、鉛の空から小さな小さな雫が降り注いで。彼女の髪を、額を、唇を小さく濡らした。
 多分、このままじゃびしょ濡れになってしまう。はやく、濡れないどこかへ逃げなければ――だなんて、そんなことで頭が一杯になってしまう。
「行こう」
 彼女の声を合図に、俺は彼女の右手からバッグとスーツの上着を奪う。その時、彼女の左手に携えられた林檎飴が目に入って。たとえば、林檎が木から地面に落ちるように、彼女の左手に林檎飴が収まっているのも決まっていたことのように思えた。そう思うと、なぜだか自然に笑いが込み上げてきて、自然と自分の頬が緩んでしまうのだった。まるで、誰の目から見ても幸せなように。
 そうして、ふたりでかけだした。
 雨の匂いが充満したアスファルトの上をふたりの足音が大きく響く。



――――さて、これから咲きの出来事は天のふたりでさえ与り知らぬところだ。










***
去年設定考えてたんですけど結局あげられず、もったいなかったので今年あげてみました。
gdgdですね。
というか、わけわからん内容なってると思います。
すみません。
ぼちぼち直します。


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